妹尾健太郎「スメナリ語伝ことさら鹹い夏の海」(『羽沖抄』)・・
妹尾健太郎句集『羽沖抄』(暁光堂)、著者の「後記」に、
句集名の「羽沖(ハネオキ)」は私の俳号であり、SNS上のハンドルネームでもあります。
私の句作には今世紀最初の十数年中断があり、ざっくり羽沖以前と羽沖以後に分かれます。本句集には羽沖以後の句を主体に二百八句を収めました。製作年の順序は不同で、四季および新年と無季の六章に分けています。
秋蝶の自覚をもって恥さらす
雑味の多さは自覚するところです。格低く駄洒落風味の句も自選して憚らないところがそのまま私らしさです。
口語と文語の混在、また仮名遣いの不統一についての自覚もあります。これは時を隔てた一句ずつが無理に規制し合わないことを優先した結果と云うしかありません。その時々において口語も文語も私には必要で、仮名遣いの新旧についても都度一句に相応しい方を選びたいと思うからです。
とあった。巻末には、けっこう詳しい年譜が付されている(羽沖の来し方が窺える)。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、くつかの句を挙げておこう。
火を水の瞼にこぼす青鞋忌 健太郎(羽沖)
春の影あなたのクローゼットからあなた
インキ壺よりも陽気な磯巾着
浮き物の金魚の開きたる両目
よひらよひらよひらくべくしてこのよ
海進の死する兆しの旱星
建て捨ての寺につくつく法師かな
いつもそう帰燕と思う消えてから
川底を流るる影の紅葉かな
声のする方に子居らず秋の暮
ほんものの水かなこんなにも澄んで
名づけずにわれからくらい漂わせよ
男瓦を乗せめがわらら冬うらら
そう呼ばれたくない時も冬薔薇
隕石の跳ね弾む橋閒石忌
まるまってみたいと思う氷柱かな
水鳥のことは水のみ知るところ
猿曳が曲り二匹の猿曲がる
風神が裸足でなくてどうします
妹尾健太郎(せのお・けんたろう) 1960年、岡山市生まれ。
撮影・中西ひろ美「朝市の小銭涼しき音こぼす」↑
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