山口昭男「片蔭に吸ひつくやうに歩みゆく」(俳句日記『花信草信』)・・
山口昭男著・俳句日記2024
『花信草信』(ふらんす堂)、その「あとがき」に、
この俳句日記をはじめるにあたって、いくつかのことを課してみることにした。
まず、俳句作品について。
●虚子編の『新歳時記』(三省堂)に沿って季語を選び、なるべく重複しないようにする。(中略)
次に、添える文章について。
●子供時代や社会人になってからの体験や経験を書く。
●爽波の言葉、裕明の言葉を書く。(中略)
ということで、一年間進めた。
俳句作品について、選んだ季語が難しかったり、その季語で作っても納得がいかない句になってしまったりと、立ち止まってしまうことが多々あった。それでも、忌日の季語を含めて新しい季語に挑戦できたことは一つの成果だろう。
文章については、どこまで踏み込んで書けばよいのかと迷いながらの一年であった。ただ爽波、裕明の言葉の重みを改めて感じることができ、日記に記すことができてよかったと思っている。
とあった。本書のなかの一例を抽いておくと、
十二月十七日(火) 【季語=冬の蠅】
〈天界の俄かに近し帰り花〉という小山田真里子の句を裕明は次のように評している。「『天界の俄かに近し」という十二文字と、『帰り花』という季語とは、イメージとして、それほど離れていんさいと思います。(略)季語が一句の中できっちりはまっていて、季語の働きに文句のつけようのない句です」(二〇〇五年「ゆう」一月号)。イメージが離れていない。心しておきたいことだ。
とあった。ともあれ、本書より、句のみになるが、愚生好みにいくつか挙げておきたい。
雨垂のつながつてゆく歌留多かな 昭男
鶴凍てて白紙のような水たまり
すすみゆく畦火に意志の生まれたる
春月や口づけ鹹いではないか
白濁の青年歩む花の昼
この花を現の証拠と言はれても
この鯰水が軽いと言うてをり
摺りおろす山葵真緑茅舎の忌
走行(そうあん)や雲つぎつぎに影落とす
囲まれて菊人形は人を見る
時雨るるや煙草の箱に駱駝の絵
初雪のまことに空のにほひかな
新聞のチラシを歩く冬の蠅
むらさきに暮れてゆきけり裕明忌
山口昭男(やまぐち・あきお) 1955年神戸生まれ。
撮影・鈴木純一「迷ったら左へ曲がる定齋屋」↑
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