細谷喨々「何処までが此(こ)の世彼(あ)の世の螢かな」(『自註現代俳句シリーズ・細谷喨々集』より)・・
自註現代俳句シリーズ・13期31『細谷喨々集』(俳人協会)、その「あとがき」に、
(前略)お釈迦様の時代のインドでは、人生を四つの時期に分けて考えたといいます。ヒンドゥー教の四つの発展段階によります。「学生期」「家住期」「林住期」「遊行期」。私に当てはめまると第一句集は「学生期」、第二句集は「家住期」、第三句集では「林住期」が詠まれました。「林住期」では内面的な探求、洞察が行われ、最後の「遊行期」に向ってmの準備が進んだように思います。
私の俳句人生は二十歳前から始まりましたから、もうじき六十年、およそ二十年ずつ段階を上がってきたことになります。そのことを句を選びながら、つくづくと感じました。
とあった。以下に、三、四の自註を紹介して、その他は、愚生好みに偏するが、いくつかの句お挙げておきたい。原句は総ルビだが、全句には入れなかった(お許しあれ)。
俳書繙(ひもと)く君羨(うらや)まし風邪薬 昭和四六年作
「征良君に、吾も卒業試験と前書。二歳下の
「風土」の仲間、島谷君は国学院大学国文科の卒
業試験のために『俳諧七部集』を勉強中だった。
雛菓子に血の色医者をやめたき日 平成四年作
死なれることが続くと鬱の気が兆す。雛菓子の赤
にも血の色を感じる。つらい日々だった。
みとりとは生きることなり霜柱 平成一九年作
治るようになってきた小児がん、それでも旅立っ
てしまう子もいる。親と一緒に亡くなる子を看取る。
みとる側はしっかり生きなければならない。
雨を汚し木の芽を汚し私(わたし)たち 平成二三年作
一九六〇年代にジョーン・バエズがよく歌った
「雨を汚したのは誰」。繰返し行われた核実験への
プロテストソング。東日本大震災の福島が悲惨。
麗(うらら)かや父からもらふ聴診器
死の冷えの移りて重き聴診器
冷房やこぼれて涙あたたかき
夢想して苦悩して月のくらげかな
繫盛(はんじょう)を願はぬ職も酉の市
春の闇そのまま池へ続きけり
水引草からまりからまり雨の玉
のぼるより落つる螢のますぐなる
ボーイングフフフと読んでキャンプの子
月山はてらりと白し春の風
人体体温計と言はれて老いて春の風邪
鬼やらひ天撃ち地撃ち四方(しほう)撃ち
行く春や自然死(しぜんし)に〇(まる)検案書
竹林や師の夏痩せの影法師(かげぼうし)
インバネス放埓(ほうらつ)の血も我にあり
細谷喨々(ほそや・りょうりょう) 昭和23年、山形生まれ。
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