マブソン青眼「イカロスの笑み光りけり火焔土器(どき)に」(『ドリームタイム』)・・


    マブソン青眼第10句集『ドリームタイム』(本阿弥書店)、フランス版・PiPPA E'ditions『ドリームタイム』(フランス語・日本語対訳)。ここでは、本阿弥書店版に寄る。帯には、


 オントロジー的転回“ガイアの眼で“地球を眺める・・・

 火焔型土器、/地中海の太陽、/イカロスの夢、

 そして その先には/人類が消えた後の/「量子俳句」

 010101の鳥語


 とあり、著者「あとがき/量子俳句の夢へ」には、


 本集は第十句集となる。第九句集は縄文文化を主題とし、全句において、第八句集の途中で授かった「無垢句」の新韻律「五七三」を遺っていた。本集でも「五七三」(たまには「五七二」あるいは「五七一」)のリズムに従ったが、発想・表現法に関しては大きな展開があった。(中略)

 とくに本集の最終章「量子俳句」において、具体的でいながら「この世(物質の世)の世とあの世(波動の世)の二重写し(重ね合わせ?)」のような一物仕立ての句ばかりとなり、一つの題材だけでも(無季の題材でも)「二重底の意味」なら「取り合わせ論」でいう「匂付(においづけ)も可能だと実感した。なお、頭韻が増えたことで音韻的にも句が単純化され、意味(粒子)と言語音(波動)が統一され、なんとなく古典力学から量子力学に変わったかのような“浅くて深い“風景が見えてきた。「五七三」の左右非対称のリズムが、量子ビットの「0」「1」「0/1」のように、二択(5,7)ではなく三択(5,5+2、5-2)を促し、閉じられた円ではなく螺旋型の時空間となり、字数が減ったことでむしろ無限の可能性が広がったように感じた。ついには切字「や・かな・けり」も消えてしまったのだ。現在形しかない、人語の理屈もホモサピエンスのエゴもない“原初的な波動のオントロジー“、“量子(たましい)の世界“に少しばかり近づけたか。(中略)

 本集は、そんな新たな「アニミズム俳句」の旅への船出であってほしい。今後、私が主人公ではなくなっても、新韻律「五七三」の夢路は続くだろう。


 とあった。集名に因む句は、


  ドリームタイムからまよいこみみぞれ     青眼


であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  魔物死んで天使も死んで焚火         

  逆さなる火焔(どき)に凍土と死児と

  娘十五土器五千歳の立夏

  夏草に人身という器

  火焔土器以降人類暑し

  火焔土器に朝焼夕焼永久(とわ)

  老鳩やサグラダファミリアで死を待つ

  イエス様を仰げばわれも裸

  葉が落ちるまえ葉の影が落ちる

  無限大から無限大へ鯨

  雪ひとひら死ねばひとひら生まる

  ぼた雪が散るぼた雪の死屍(しし)に  

  南十字見つめつつ蛇出づる


 マブソン青眼(まぶそん・せいがん) 1968年、フランス生まれ。  



         撮影・芽夢野うのき「六月の指先流れ出す水音」↑

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