林桂「立葵七年逢(たちあふひななとせあ)はぬ父(ちち)と母(はは)」(遠近紀行)・・
林桂第10句集『遠近紀行』(ウエップ)、その「あとがき」に、
『遠近(をちこち)紀行』は、『百花控帖』に次ぐ第十句集である。多行表記を基本とする六冊の句集に対して、一行表記句集の四冊目となる。(中略)
日常の時間を「紀行」と呼び、小さな旅の時間も「紀行」と呼ぶことで、その照合が自照にならないかという試みである。父母を失い、久しくなる離郷から、漂いはじめた晩年意識をいきることとなった。いっそこれを「紀行」と呼んでしまうことで、時間の輝きを取り戻せないかという細やかな前を向くための発想の転換を意図している。「旅」との照合を通して、褻の時間をも「紀行」として生きようとするけなげな思いである。巻頭の芭蕉の言葉の引用部分は、そんな思いに対応したものである。
とあった。献辞に、「船の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる――芭蕉」が置かれれている。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。句には、総ルビが施されいるが、ここでは、多くを省かせていただいた(許されよ)。
喫茶ダウンビート ここでの小さな「ビート句会」から「鬣」は始まった
馬場川(ばばつかは)の陽の煌めきを秋思かな 桂
内閣府貸与線量計残暑(ないかくふたいよせんりやうけいざんしょ)
青柿や〈アンダーコントロール〉下(か)の遺影
平和公園を穿(うが)つ防空壕あまた
五月来(ごぐわつく)る影をひっとりにひとつづつ
夕暮れは地より沸きたつ寒椿
寒昴未来に追ひつくことなくて
観月に影得(う)れば影動きをり
つんとしてしんしんとしてをり冬真昼(ふゆまひる)
雪の根に睡(ねむ)る蟬の子の吾(あ)もあらむ
蝕(しよく)終へしひかりの月や冬薔薇(ふゆさうび)
釣鐘(つりがね)は闇を吊りをり重信忌(ぢゆうしんき)
ゑくぼにも涙のたまる晩夏かな
海に遅れて空昏(そらくら)くなる秋の暮
老い易き少年ぞわれ蟬翁忌(せみをうき)
湖(うみ)しぐれ敗るる者の尊(たふと)けれ
七日好摩(なのかかうま)八日重信(やうかぢゆしん)雲の峰
林桂(はやし・けい) 1953年、群馬県生まれ。
撮影・中西ひろ美「葉に溜まる雨おもしろや睡魔揺れ」↑
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