藤岡巧「盲目となりし猫に手のひらの愛のチュールをそっと差しのべ」(「月光」89号より)・・
「月光」2025年2月、89号(月光の会・発売:晧星社)、特集の「旅」の扉には「言葉のみを持って、遠くへ行こう―ー大和志保」とあり、次の四首が掲げられている。
野にほそく長く静かに歌うものあれば月夜の伴侶と思え 鹿野 氷
宇宙より地球に旅し棲みつきシ生命のひとつぶの我を愛(いと)しむ 大林明彦
戦後つ子の履き違へたる自由なり親をうつちやり旅への逃避 髙橋凛凛子
窃視(モニタリング)せし情事目蓋に縫い閉じて夜 猥らけきおんなよにっぽん
大和志保
エッセイには山本茂「東ドイツーー独裁者のベッド」、足立尚計「橋本左内の旅」、大和志保「書かれた言葉たちとその身振りを巡って—ーあるいは砂漠、または『眼の旅』」、岡部隆志「東京荒都歌 荒廃した東京を過ぎる旅の歌」、渡邊浩史「伝蔵の背な」、福島泰樹「テロル、追憶への旅一 追憶は追憶を産み育み/追憶は又新しく追憶を生む!中浜哲」。
ブログタイトルにした「盲目となりし猫に手のひらの愛のチュールをそっと差しのべ」の藤岡巧は愚生の数十年前の知人で、労働組合の優秀なる活動家の一人として敬愛していた一人だ。その名と短歌を見つけたので、思わず懐かしくなってしまったのだ。健在とあれば、喜ばしい。確か、今は亡き冨士田元彦の雁書館から歌集を出されていた。ともあれ、以下に、本誌本号より、いくつかの歌を挙げさせていただく。
大正十二年一月、戸塚兵衛町にギロチン社設立
極東虚無黨総裁中濱鐡デアル組織ヲ嫌イ起チシ男ラ 福島泰樹
まつはれるものらはすべて流れゆき枯螳螂の動かざる朝 竹下洋一
夜通どうしの屋根打つ雨は秘めやかに声つまらせて泣く鳥のよう 藤岡 巧
轍さえ見えない道を走り出す滑るようにか祈るようにか 川崎秀三
美空ひばりも小林旭も都はるみも矢沢栄吉も松坂慶子も松田優作も…
みな朝鮮人やぞ、あほんだら!
キムチ臭いと泣かす奴らも泣く奴もしばきたくなる苦い苛立ち 凛 七星
陽だまりに紅(あか)く椿は落ちだまる 逃るるすべのなき土(つち)の面(も)
武藤雅治
せつなさは指の隙間に絡まりてとれないきみのあやとりの橋 橘 世理
指の秀のかすかに炎えてふれしかば青あぢさゐの花展くべし 安永蕗子
たましひの証しのごとくあぢさゐの青ひたすらにこの冬をさく 髙島和惠
きみの憲法九条堅持を愚直と嗤ったが撤回はしない 山本 茂
制服をぬがされ首輪につながれる犬は主人を嚙み殺すゆめ 吉田裕幸
よみさしの物語また手にとればひらく頁に果てている紙魚 夏野ひぐらし
私など誰も知らない東京で深々息を吸って吐くんだ 綿田友恵
山茶花の散り敷かれた道デモが征く「停戦守れ! 占領やめろ!」 重信房子
ひとりならどうにかできるじゅわじゅわが仕事中にもじゅわじゅわしても 小田那津子
風の音はどこで生れしか補聴器を拷問の具にして我を圧する 椎野礼仁
離島の名鬼哭の島と呼ばれたり置き去り遺骨万余の柱 中田 實
撮影・芽夢野うのき「昼顔へ一歩ちかづく昼の闇」↑
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