仁藤やよひ「瞳(め)を閉ぢて暗がりつくる遊びせむ仰臥のときのかく永き昼」(『Pianissimo』)・・
仁藤やよひ歌集『Pianissimo』(私家版)、便りには、昨年の晩秋のころより、歌のこころがもどってきたとあり、どうやら、わずか10部ほどを作られたらしい。愚生の知っている俳人としての号は、仁藤さくらである。ふた昔もみ昔以上も前、何かの会でただ一度だけお会いしている。ともあれ、収められた歌は45首。愚生好みに偏するが、いくつかの歌を以下に挙げておきたい。
水惑星この美しき鞠ひつ神は手玉にとり給へるや やよひ
脚(あし)延べて復活の地に降り立ちし夜間飛行の鳥たちのむれ
眼を病めば天に咲(ひら)きし揚花火その花群の綺羅知らざりき
まぬがれがたく星の嬰児は放たれぬさびし母体といふはいつでも
産婦人科院の庭に昏々(くらぐら)と種蒔く父よ胎児の死ののち
花冷えの亡き母の部屋ゆっくりと身を育てゆく人形あらむ
薄青き菖蒲を水に沈めゐむはろばろと男子なき家系にて
MRI(エムアールアイ)その半円を滑りゆく頭蓋に淡き虹たたしめよ
雪満てる真冬の地平水仙は嗜虐のごとく花ひろげたり
遊星のごとく謐(しづ)かにめぐりをらむ遊走腎てふはかなき走者(ランナー)
成層圏のつばさあるもの過ぎしとき胸びれふるふ水槽の魚(うお)
ぬばたまの黒猫 nuuba 遠火事に閉ぢし瞳をふとひらきたり
永遠に閉ざされしこと美術館少女を入れて扉閉まりき
ガザのひかりとほくたしかに届きつつ花火倉庫の裏の虹の花(アイリス)
写真展戦地に微笑(わらふ)ふ幼きの前さわやかに少女の無疵
日輪の裏に祝祭あるごとく児ら覗きたり陽の蝕(エクリプス)
撮影・芽夢野うのき「蓬髪やふらここはこげませんから」↑

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