尾形龜之助「春雷や雲たひらかに湖(みづ)の上」(『尾形龜之助全集 増補改訂版』より)・・
『尾形龜之助全集 増補改訂版』(思潮社)、ブログタイトルにした「春雷や雲たひらかに湖(みづ)の上」の句は、全集中の「短歌、俳句」の部分で、句は「枇杷の果」と題した10句(「蕉舎句帳」昭和10年2月ー11年8月より)からのもの。ただ、愚生がここで紹介したいのは、尾形龜之助『障子のある家』(再販本を底本とした復刻版・1500円)である。発行は2024年9月5日、発行人は小熊昭広(詩誌『回生』)、印刷・製本は毛萱街道活版印刷製本所のものである。
復刻版の詳しい制作過程は、図録『タイポグラフィック をがたかめのすけ/~金属活字による尾形龜之助『障子のある家』再現展~』(於:曲線:仙台市青葉区/主催 詩誌『回生』×曲線×毛萱街道活版印刷製本所)・2024年7月22日~7月29日・が詳細を極めている。その図録の「端緒」に、小熊昭広は、
尾形龜之助の詩集『障子のある家』を活版印刷でできるだけ昭和二十三年に発行された再販本の文字組みで作ろうと思い立ったのは、単に『障子のある家』の言葉の身体を使ってひと文字ひと文字拾い上げ、並べてゆき、印刷することで、その詩の言葉を味わいたいと思ったからでした。(中略)
文学作品は文章が第一です。詩集は、詩語の行間に生まれる詩なるものを味わうものだと思います。しのことに異議を唱えるつもりはありません。そのうえで、尾形龜之助が自ら装幀した詩集の姿形(すがたかたち)で、いたずらのように彼が仕組んだことを見てみるのも一度くらいはあってもいいのではないか思いました。
と記している。ここでは、詩集のなかの「三月の日」を紹介し、かつ全集より短歌・俳句を数首、句を挙げておこう。
三月の日
晝頃寝床を出ると、空のいつものところに太陽が出てゐた。何んといふわけもなく氣やすい氣持ちになつて、私は顔を洗らはずにしまつた。
陽あたりのわるい庭の隅の椿が二三日前から咲いてゐる
机のひき出しには白銅が一枚残つてゐる
障子に日ざしが斜になる頃は、家では便所が一番に明るい。
かくて後暮れはてるべき夜はあけて花散る朝を鳥は歌へり
監房の夜明けを雨の過ぎゆけば湿り蒸れたるにほひを吸ひたり
反(そむ)きたる若き命のさ迷いに十字の路を知らずまがれり
残されて芽をふく桐や分譲地
五人着て五人で帰る獺祭忌
声かくる日向の縁やつるし柿
尾形龜之助(おがた・かめのすけ) 1900年12月12日~1942年12月7日。宮城県柴田郡大河原町生まれ。
撮影・鈴木純一「雪国のうつくしさだけ君に言う」↑
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