小澤實「年酒また常温がよししましふふむ」(「澤」2月号)・・


 「澤」2月号(澤俳句会)、巻首に近い高橋睦郎「季語練習帖」第182回は、二月【碧梧桐忌 碧梧忌 寒果忌 寒明忌 春隣忌】である。それには、


 いざ子供碧梧桐忌の句を競ホへ    

  明治新派の俳句の創始者、正岡子規の後継者として高浜虚子と双璧の河東碧梧桐(幼名碧梧)の忌日は二月一日、歳時記に碧梧桐忌の項はあるが、傍題の寒明忌を含めて例句は寥々たるもの。(中略)加えて虚子忌が四音で五七五音律に収まり易いのに対して、碧梧桐忌が六音で収まりにくいこともあるのではないか。ついでに傍題の寒明忌が寒中からの解放を言いながら、事実は寒明けではなく寒果てだという理由によるものではないか。(中略)明るさを求めるなら寒果ては春の隣だから春隣忌としてもよかったかもしれない。傍題として新たに寒果忌、春隣忌を提案する次第である。


 とあった。あとひとつは、愚生の句集『水月伝』(ふらんす堂)を木内縉太が「窓 俳書を読む」に採り上げてくれている。深謝!!!、それを以下に引用しておきたい。


  流浪。反骨・異端・星雲・てんと虫

  叫びは立ち込め土砂より速く飲み込む海

  戦争に注意 白線の内側へ

 一般的な俳句において定型がことばに潤いを与えるとき、掲出の句々は定型がことばをささくれだたせる。そればかりか、句点、中黒、一字空けなどの反定型いしきはほとんど暴力的であるとさえいえる。これらの乾いたことばに対応するだけの現実があるということを忘れてはいけない。


 ともあれ、本誌より、わずかになり、恣意的になるがいくつかの句を挙げておきたい。


  新傾向自由律ルビ寒ンは寒(ふゆ)      高橋睦郎

  ストーブ列車ストーブ横の小さき書架     町田無鹿

  二竈目の餅米臼へ移さるる          川上弘美

  灯して喫茶「扉」よ夕時雨          池田瑠那

  俺のセーター着るな別れてひと月ぞ      榮 猿丸

  吾子といふ火の玉抱へ吾も咳く        金澤諒和

  「子はゐません」詐欺の電話を切る寒夜  東徳門百合子

  雪空や逮夜まゐりの女僧           大文字良

  オリオンや厩舎に馬の安楽死         梶等太郎

  我が前に野火の炎の果ててをり       山口方眼子

  吹けば燃えうつゝの炭や御食国(みけつくに) 柳元佑太

  冷やかに朝日は海を離れけり         押野 裕

  「岬」ゲラ著者校九度冷まじき       望月とし江

  黴に泡吹きつけ待ちぬ流したり        木内縉太

  女陰もて冬林檎剥花電車           林 雅樹

  餅の手にあやうしストッキング履く      田中 槐



     撮影・中西ひろ美「見えるところは真っ直ぐに春の道」↑

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