田丸千種「落ちさうに咲き咲くやうに落椿」(『弄花』)・・


 田丸千種第二句集『弄花』(朔出版)、著者「あとがき」には、


 第一句集『ブルーノート』以来、はや八年が経過した。その間の二〇一六年から二〇二二年六月までの句をまとめた。(中略)

 句集名は、わが家に時々掛ける軸「弄花香衣」からとった。これは私の結婚祝に禅寺の住職が揮毫し贈って下さったもの。祖父の代から随分親しくお世話になった方で、本書冒頭の登場人物でもある。

 軸の言葉は、唐の「春山夜月」という詩の一節から来ている。

  掬水月在手 水を掬すれば月手にあり

  弄花香満衣 花を弄べば香衣に満つ

 深い意味があるかもしれないが、私はこの文字通りに季節の中で軽やかに俳句と遊びたい、とその境地を勝手に解釈している。


 とあった。 ともあれ、集中より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。


  風薫る滝頭より人の声         千種

  水ほどに形代流れゆかざりし

  生き死にのなき吹かれやう蛇の衣

  汚れざる絵皿も露の世の遺品

  山深きここも右京や竹の春

  寝かせれば寝釈迦ともなり石の秋

  七回忌七たび秋を深うせり

  AIに雑味足らざり桃青忌

  一本は杞陽の植ゑし冬椿

  雪女郎雪男には振り向かず

  平凡な水に戻りしうすごほり

  かき餅がなくなるまでは春小鉢

  病まれしも逝きたまひしも花の頃

  活版の戀と印字や紙の春

  初蝶もこぼるる花もけふ虚子忌

  見覚えの赤を帰天の花衣

  明王の古りし憤怒の日永かな  


 田丸千種(たまる・ちぐさ) 1954年、京都府生まれ。


★閑話休題・・中尾淑子「争わず順待つ子らの細き腕」(立川市シルバー大学「俳句講座」第5回)・・


 昨日、1月8日(水)は、立川市シルバー大学「俳句講座」第5回(於:立川市曙福祉会館だった。兼題は「眼・目」と「争」で計2句持参。以下に一人一句を挙げておこう。


  己の年の厄を払うや不動の眼       堀江ひで子

  夢舞台シード争い駆ける友         島田栄子

  戦地の子涙の果ての虚ろな目       赤羽富久子

  目を凝らす木々は新芽を抱えいて     白鳥美智子 

  母譲りやっと身につく目分量       小川由美子

  大年の天声人語争三つ           林 良子

  初レースバンクに風と掛声と        大西信子

  ガザの子ら歪んだ鍋をつき出す目      原 訓子

  初笑ひマスク眼帯あんただれ       古明地昭雄

  鯉mの稚魚黒目二粒光っている       手島博美

  目に映える水平線の初日の出        中村宜由

  花枇杷に争い群れる目白かな        山下光子

  遺族らの愛(あ)しき眼差し一周忌     中尾淑子

  戦地の子涙の果ての虚ろな目       村上たまみ

  世の中を見る目養おシニアこそ       柳橋一枝

  争乱のなきこと願う年始め         河本和子

  絶えて無し百家争鳴冬あかね        大井恒行


 次回、第6回は、2月5日(水)、宿題2句は、平仮名だけで句を作り、2句持参。



            鈴木純一「南無八幡鳩は軍の使いとか」↑

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