神野紗希「ひかりからかたちへもどる独楽ひとつ」(『アマネクハイク』より)・・
神野紗希著『アマネクハイク』(春陽堂書店)、その「はじめに」の結びに、
(前略)あまねく、俳句。この世界に俳句ならざるものはない。アイスティーのグラスの水滴も、残業の帰りに見上げる月も、遠い砂漠に目をつむるラクダも、はるか宇宙の星の砂粒もひとかけらも、目の前のベランダで夏空に揺れている息子と私の靴下も、すべては移り過ぎいつか消え去る。だからこそ、どんなささやかな出来事だとしても、すべての瞬間、すべてのものが、あまねく尊いのだ。俳句はその「あまねく尊い光」を歓ぶ詩である。
とあった。エッセイ「ミんナノ、ネガイ」の中から、
(前略)戦禍の爆撃とは比ぶべくもないが、私もここ数年、厳しい外圧に晒(さら)され続け人生を悲観した苦しみの中で、俳句だけは手放すまいと決めていた。言葉は、私の心おsのものだったからだ。他の何を奪おうとも、私の心は、絶対に、渡さない。瓦礫に染みあたってゆく彼女の旋律には、怒りとともに強靭な意志が輝いていた。
奪いえぬものに心やアネモネ抱く 紗希
キッチンの窓辺に飾ったままの七夕竹。息子の書いた短冊が秋風に揺れている。「ミんナノ、ネがイガ、かナイマスヨウニ」。カタカナを習ったばかりで表記がちぐはぐだが、それゆえに祝詞(のりと)のように、言葉そのものの意味が純粋に透きとおって光る。どうか彼女が安心してくらせる部屋でまたピアノが弾けますよいうに。どうか子どもたちが爆撃に怯(おび)えることなく優しい夢を見られますように。どうか。どうか。ミんナノ、ネがイガ、かナイマスヨウニ。
ともあった。ともあれ、本書中から、神野紗希の句のみになるが挙げておきたい。
細胞の全部が私さくら咲く 紗希
つわり悪阻(つわり)つわり山椒魚どろり
切株に詩を書く初雪は光
鯛焼を割って私は君の母
窓眩し土を知らざるヒヤシンス
神野紗希(こうの・さき) 1983年、愛媛県松山市生まれ。
★閑話休題・・筑紫磐井「来たことも見たこともなき宇都宮」(「現代俳人・近代文人色紙即売展(軸装も)」於:OKIギャラリー))2025年1月6日(月)~1月24日(金)午後1~5時(月・火・木・金曜日開催)・・
沖積舎&OKIギャラリーが半世紀にわたり収集した作品群!!
宇多喜代子・池田澄子・安西篤・塩野谷仁・中原道夫・坪内稔典・秋尾敏・片山由美子・対馬康子・高野ムツオ・筑紫磐井・能村研三ほか在庫に三橋敏雄・高柳重信・安井浩司・山口誓子・西東三鬼・石田波郷・日野草城・伊丹三樹彦・伊丹公子・高屋窓秋・石原八束・河合凱夫・永田耕衣ほか/川端康成・小林秀雄・稲垣足穂・西脇順三郎・藤沢周平・大江健三郎・上村淳之・島尾敏雄・小川国夫ほか/在庫に島崎藤村・永井荷風・江戸川乱歩・唐十郎・田村隆一・稲垣足穂・吉田一穂・高橋新吉・大岡信・小野十三郎・金子光晴ほか・・
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