辰巳泰子「鳥どちは蒼天を摩り蒼天は容れてかなしむ ちぎれんばかり」(「月鞠」第21号)・・
「月鞠(げっきゅう)」第21号(編集発行人・辰巳泰子)、その「編集後記」に、
皆さんにお知らせ。月鞠の会は、この21号にて、結社としては解散し、小誌は創刊時と同様、個人誌のていに帰して継続。(中略)
この変化は、私個人の事由によります。2023年の半ば頃からバセドウを病みました。現在は回復し、長年口に糊した編集校正の業務に復帰していますが、個人のペースを死守しつつ、すべきことに集中したいと思うようになりました。
そんななか、古典研究を、短大時代の恩師、出雲路修先生に師事します。(中略)
この「『定家十体』考」からご助言を頂戴しております。研究は、すでに次の著作物のための準備を始めており、その調査や、考えの途中経過を「鬼さんノート」、「鬼さん考」として公式ブログ上に示しています。
誰もが、はかないこの世を生きている。そのなかで、はかないなりに、何らかの痕を、生きたしるしを、残そうとする者がある。十年ひと昔前の小誌、旧号の編集後記に、私の歌は墓標のようなものだと書きました。しかし今、研究にまことの師を得て、自分の墓標ではなく誰かの、道しるべとなるような歌を詠みたいと、強く思うようになりました。
2024年、晩秋。髙瀨一誌さんと母の月命日の日に、これを記します。
辰巳泰子
とあった。本誌の他の目次を示しておくと、辰巳泰子/歌論「『定家十体』考」、百首歌「アイアン・ボトム・サウンド」、俳句小論「松木靖夫さん。そして境涯詠のことなど」。石川実(サンタ)現代説話集「ディアブロ/帰還兵」。
ともあれ、以下に、本集より、辰巳泰子の歌を、いくつか挙げておきたい。
ウオトカの安きを提げて醸すなり不遇のおんなのごとき果実を 泰子
干さるるというにあらねど非正規の雇用の谷を閑居している
音階や色彩JIS そのどれでもなく 想いにあえぬ私でありぬ
やんばるくいな よあけのばんにでて轢かれ 視えざる者ら踏む交差点
さいころを振れば真赤き目はひとつ 炉の火といえば鬼めくごとし
そのかみは飛び移る火でありしもの 生命維持の電気をおもう
無修正版グリム童話のなかに棲むまひる人妻とまぐわう牧師
兵馬俑あざやけく絵付けせし人も囚われびとか ブルーノ・シュルツ
鬼しこの草だに花のときを生く 願いを放ちたきゆうまぐれ
まさぐれば鼓動をはらみうち湿る縄文のふところに眠れよ
辰巳泰子(たつみ・やすこ) 1966年、大阪市生まれ。
★閑話休題・・小川楓子「ダッシュ肺にまざりこむ金木犀ダッシュ」(「KENOBI」Vol.1/創刊号)・・
「KENOBI」Voi.1 創刊号、編集後記に「創刊号は海をテーマにしました。(楓子)/唯一無二の三人とKENOBI初の紙版を出せた。(徳将)/海の魅力、俳句の魅力、少しでも伝われば幸いだ。(人秀)/だからKENOBIは可愛い本にしたいのです。デザイン力はまだまだですが……頑張ります。(かの)」とあった。以下に一人一句を挙げておこう。
秋めくと港ほんのり腐爛する 小川楓子
尾と頭どつちが細いねん矢柄 黒岩徳将
喰はれたる鰯の口も動きけり 塩谷人秀
オヤビッチャひらひら秋潮のスカリ 寺沢かの
鈴木純一「初しばゐ無念のンだる者たちへ」↑
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