塩野谷仁「仮の世の晩景柚子の暮れ残る」(「遊牧」No.154)・・


 「遊牧」No.154(遊牧社)、「俳句鑑賞ノート(Ⅱ」」に、愚生の句集『水月伝』(ふらんす堂)を川森基次が「『大井恒行『水月伝』を読む」と題して評してくれている。深謝!!、その結びに、


   例えばあとがきの最後に記された一句にある〈尽忠〉という言葉。

     尽忠のついに半ばや水の月

  攝津幸彦の使った〈御恩〉などもそうだが、〈尽忠〉という言葉にアイロニカルな響きを感じさせつつも、同時代を生きたとはいえ六歳下の私などには微妙にわかりがたさも残る。しかしこの句集そのものが〈戦後史〉あるいは〈自己史〉そのものへの未決着の〈悼〉であることだけは分かるつもりだ。私も〈水月〉を泳がんとする蛇のようなものだから。


 とあった。ともあれ、本誌本号より、いくつかの句を挙げておきたい。


  鏡屋に鏡の夜がきてちちろ           清水 伶

  ヘルメットの似合う漢と芋名月         田中収三

  受けとめてくれる手のあり草の花        髙野礼子

  キューピーの足裏の汚れ夏休         関戸美智子

  白昼も星は睡らず冬もみじ           長井 寛

  にじり寄る秋創世の孤舟たり          並木邑人

  白木槿咲いて既読のつかぬまま         直江裕子

  土壜割わが指もまた細い枝          堀之内長一

  細道のつづきのありて返り花          石橋 翠

  星月夜地球の廻る音しずか           吉岡一三

  どうしても折れぬ芒を海と思ふ         片山 蓉

  烏鷺の影杭を争ふ水の秋            川森基次

  鮭打つや子持ちの鮭を除(よ)けながら     栗林 浩

  一滴の水になりても風の盆           小林 実

  元禄の墓石ともす烏瓜             坂間恒子

  大谷橋から男体山(なんたい)失せし夕立かな 須藤火珠男

  貌のない影ふみあえり風の盆          田中葉月

  満月のこぼせし不壊(ふえ)のしずくかな    下村洋子



      撮影・中西ひろ美「草の種冬の日集まりやすきかな」↑

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