林亮「丹頂を降ろして天に帰るもの」(『詩筒』)・・

 

 林亮句集『詩筒』(私家版)、シンプルな句集。「あとがき」もわずか5行である。


 前句集「致遠」(令和四年十二月刊)以降の約二年間の作品の中から、季節ごとに十の題を定め、一主題七句として二百八十句を選んでみました。

 「草樹」の会員をはじめ多くの人に読んでいただければと思っています。

 句集の名については、この冊子を「詩を書いた紙を入れる竹のつつ」に見立てて「詩筒」としました。


 とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。


  何か浮く薄氷でなく水でなく        亮

  終へし後も花をよそほふ梅の紅

  雪間草明日のみどりを今日にはや

  花吹雪次逝く人を真白くす

  老いし子の眼花にくもる母子草

  ゆつくりと吹きて間に合ふ春の風

  魂ぬけのうつけに七賢竹の秋

  蛍火にいくたびとなく舟の燃ゆ

  曼殊沙華劫火に蘂のありとせば

  はなびらを濁りと見立つ菊の酒

  個の声のいくつか残る虫時雨

  夜をさらに暗くもしたる籾殻火

  咲くことをもつてことほぐ返り花

  わづかなる声に日を継ぐ冬の虫

  明け方に吹き手の代はる虎落笛

  凍てを経て要らざる音のなき滝に

  風花をいくひら止むに間に合はず

  逝くことの真意は春を待てぬこと


 林亮(はやし・まこと) 1953(昭和28)年、高知県生まれ。



        鈴木純一「かづらきの蒲団にもどる寝釈迦かな」↑

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