中戸川由実「壺ぬぐふ縁の小春や朝人忌」(『プリズムⅡ』)・・


 中戸川由実第二句集『プリズムⅡ』(ふらんす堂)、帯文は島端謙吉、それには、


 前著『プリズム』に次ぐ由実氏第二句集。十年を経た作者の個性は、想い濃く温みを加えて、さらに豊かに開く。

 その分光のなんと清々しくあざやかであるか。作者はそれを十分に知らせてくれた。


 とあり、著者「あとがき」には、 


 第一句集『プリズム』から十年、昨年は父朝人の十三回忌、母の三回忌であった。コロナ禍を経て「今・ここ・われ」をいっそう強く意識し、俳句とともにある幸せを実感している。〈俳句はいきいきと生きる主体のあらわれ〉との師の教えはゆるがない道しるべである。光を透して彩色を放つプリズムのように、一瞬の心のゆらぎを句に刻みたいという思いは変わらない。


 とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。


  遠巻きにをのこも群れて虹二重        由実

  枯れきはむ木に鳥礫星礫

  行けさうな鏡の向かう緑の夜

  指栞して春眠の膝の本

  潮騒と思ふ葉騒や聖五月

  雪花菜炊く厨に通す夕蜩

  ひだまりの椅子に母載る小春かな

  ひと掴み母にも持たせ年の豆

  林火忌の胸にひらきしもののあり

     母永眠

  白粥の終のひと匙霜の花 

  神々の住まひし丘や匂鳥

  山国ははた川国や紅の花

  声にしてその名涼しき尾花沢

  帯結ぶ合せ鏡に春立てり

  白南風の海へ傾るる旧市街

  汝も吾も遊子のひとり萩の風

  吸ふてみる蜜のむかしや忍冬


 中戸川由実(なかとがわ・ゆみ) 1958年、横浜生まれ。 



        撮影・中西ひろ美「泣く前の一瞬はあり冬の賛」↑

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