フランツ・カフカ「闇の暖かさのない闇」(頭木弘樹編訳『カフカ俳句』より)・・


  フランツ・カフカ/頭木弘樹編訳『カフカ俳句』(中央公論新社)、帯に、


 手紙や日記などの遺稿から精選80句+解説

 九堂夜想(俳人)との特別対談収録

 彼の一行が、俳句に変身する

 夕方、森へ。月が満ちている―ーフランツ・カフカ

 

 カフカ没後百年


 とあり、「本書について」では、


・カフカの言葉をあえて「句」と呼んでいます。カフカの言葉を俳句に見立てるという趣旨だからです。

・カフカの言葉を俳句っぽく訳すということはしていません(たとえば五・七・五にするとか)。ありのままのカフカの言葉を、あえて俳句として味わってみるという趣向だからです。

・解説は、たんに説明ということではなく、カフカのことを書いたり、自分(頭木)のことを書いたり、かなり自由な内容になっています。


とあった。また、頭木弘樹「はじめに」の中に、


 カフカの短い言葉は、俳句のようだなあ。

 私は以前から、そんなふうに思っていました。

 たとえば「鳥籠(とりかご)が鳥を探しにいった」というような言葉です。創作ノートの中に、ただ、一行、こう書いてあります。

 もちろん五・七・五になっているわけではありませんし、季語もありません。

 でも、自由律の俳句として味わうこともできるのではないかと。(中略)

 なお、カフカは自分の本を出すときに、出版社にこんなふうに頼んでいます。

「可能な限り、最大のの活字でお願いします」

「小説というよりも詩のようなもので、そういう効果を出すためには、物語のまわりにそうとうゆったりした空間が必要なのです」

 その希望になるべくそって、本書でも、カフカの言葉は大きな活字にして、周囲にゆったりした空間をとるようにしてみました。


 とあった。以下には、カフカ俳句のみをいくつか挙げておきたい。


  まっすぐに立つ不安             カフカ

  深淵の上に横たわっている

  おまえは宿題。生徒はどこにもいない

  黒い水をかき分けて泳ぐ

  

  ドアがぱっと開き、

  家のなかに世界があわられる


  わたしの心臓のなかで

  ぐるぐる回っているナイフ


  わたしの耳にひしひしと迫ってくる孤独

  夜たちのせい

  わたしの毛皮に、わたしの手が届かない

  ある朝、ベッドの中で、虫に変わっていた

  わたしは人間とは暮らせない


 フランツ・カフカ 1883年7月3日~1924年6月3日、享年41。ボヘミヤ王国(現チェコ)の首都プラハ生まれ。

 頭木弘樹(かしらぎ・ひろき) 大学3年のとき難病になり13年間の闘病生活。『絶望名人カフカの人生論』(清朝文庫)他。

 九堂夜想(くどう・やそう) 1970年、青森県生まれ。句集『アラベスク』(六花書林)、俳誌『LOTUS(ロータス)』編集人。



   撮影・中西ひろ美「ビュウと来てどっと落した榠櫨かな」↑

コメント

このブログの人気の投稿

田中裕明「雪舟は多く残らず秋蛍」(『田中裕明の百句』より)・・

秦夕美「また雪の闇へくり出す言葉かな」(第4次「豈」通巻67号より)・・

山本掌(原著には、堀本吟とある)「右手に虚無左手に傷痕花ミモザ」(『俳句の興趣 写実を超えた世界へ』より)・・