芳賀博子「袋綴じ企画ニッポンのすべて」(『髷を切る』)・・

 

 芳賀博子川柳句集『髷を切る』(青磁社)、帰説は、町田康。その結び近くに、


   ゴミ袋ぼそっと突いて薔薇の茎

 ゴミ、も、ゴミ袋、も、ぼそっと、も、突いて、も、薔薇、も、茎、も、どれもひとつびとつが置き換えできない言葉としてそこにあって、全体として見たことがないのに忘れられない景色を見せながら、誰にでも覚えがあるのに世間やルールの形に合わせて処理してしまった小さな感情が復元せられてここにあらしめて在る。(中略)

  人生にときどきふってわくメロン

 と言われると、その通りだと頷き、頷いただけでは足りないような気がして、ないメロンを抱いて踊ったり、石仏に打ち付けて叩き割ったりしたくなる。そしていつの間にか、マアマア自由になって暫し孤独から免れている自分に気がつく。凄いことである。


 とあり、著者の「文庫版あとがき」には、


 句集『髷を切る』の初版発行から五年。本書はその文庫版、には違いないのだけれど、新しいかたちは自身の感覚としては、むしろ生きものの変態に近い。たくさんの方に育まれて思いがけなく、たとえばもし蛹が蝶になるように羽根など得られていたら、この先にまたどんな世界が広がっているのだろう。

 文庫化に際し、新たに一章を追加収録した。初版以降に詠んだ作品から選び、選句中はこの五年と改めて向き合う時間ともなった。


 とある。ともあれ、以下に、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  一番の理由が省略されている        博子

  先生の愛した先生の写真

  この鍵はちがうあの鍵は捨てた

  がたぴしと二人のジェットコースター

  実弾が飛び出すここだけの話

  ラストサムライにおごってもらう玉子丼

  蹲る まだまだ転がってゆける

  芒からやっと怒りが抜けました

  今生の隅に突き出す自撮り棒

  コイントス天まで上げて転生す

  お免状曰く精進のみである

  あ、録画するのを忘れてた戦争

  月光に触診されている窓辺

  哭いてゆく遠心力をフルにして

  陽炎に抵触するのではないか

  来年の今ごろへ吹くしゃぼん玉


芳賀博子(はが・ひろこ) 1961年、神戸市生まれ。


★閑話休題・・「ゆにアンソロ」(ゆに代表 芳賀博子)・・


  巻末近く「ゆにのご案内」には、


 ■ゆにのホームは「公式サイト」

 ゆには、紙の発表誌を持ちません。公式サイトが作品発表の場です。会員になると毎月新作川柳を当サイトで発表することができます(毎月一日更新)。(中略)

 ■毎月、互選による会員限定のネット句会「ゆに句会」を開催しています。


 などとある。ともあれ、「ゆにアンソロ」より、本集より、編集後記にある編集委員の一句を挙げておこう。


  どの淵もじそかに臨時バスがでる    山崎夫美子

  葉桜になるまでのスローモーション    森平洋子

  さよならのかたちに星座組み直す     西田雅子

  地上絵は未完 戻ってくるはずだ     芳賀博子



     芽夢野うのき「さざんかのカノン縫い目を過ぎて久し」↑

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