中村和弘「穂孕の闇に鶏糞においけり」(「陸」1月号)・・



  「陸」10月号(陸俳句会)、「五七五の本棚 句集紹介(五)」に、愚生の句集『水月伝』(ふらんす堂)の評を瀬間陽子が丁寧に書いていただいている。深謝!!少し紹介したい。


 大井恒行氏の第三句集である「水月伝」は、この一句から始まる。

  東京空襲アフガン廃墟ニューヨーク

 三つの地名と「空襲」、「廃墟」の文字。一九四五年太平洋戦争末期の東京大空襲と、二〇〇一年九月十一日のアメリカ同時多発テロ。その二つのあいだに、時間を歪ませたかたちでアフガニスタンの廃墟が置かれる。見えるのはねじ曲げられた時間と空間だ。東京にもアフガンにもニューヨークにも、同じ次元で広がる「廃墟」。作者の静かで痛烈な怒りの声が聞こえる。(中略)

 Ⅱの章、Ⅳの章は、作者の内面が色濃く投影されている。空や大地、雨や鳥、山や木や花など自然の光景に、俳句と長い年月をかけて関わり、年齢を重ねられた現在の心象が詠み込まれている。俳句の言葉でなければ表現できない、重大な告白を聞くようであった。

  鳥かひかりか昼の木に移りたる


  雨の

  氷雨の

  日暮らし

  みがく風の玉


  赤い椿 大地の母音として咲けり

  


 また、本誌の「編集後記」に、「『俳壇』九月号の中村和弘主宰特別寄稿『見える物見えない物へ』はご覧になりましたか。中村先生がかねてから口酸っぱくおっしゃっている〈もの俳句〉〈ことがら俳句〉について論じられておられます」とあった。その中村和弘の結びの部分のみになるが、以下に挙げておこう。


 (前略)実は、事柄による俳句はなかなか難しい。つい意味で述べてしまうからである。しかし私は〈ことがら俳句〉に未来あり、と考える。今日〈もの俳句〉に行詰り感が出ているからである。ただし、思想・現実認識・詩性など作者の独自性、なにより表現力が求められよう。意味に頼らない、そして類想の無い新鮮な〈ことがら俳句〉を期待する。


 とある。ともあれ、以下に本誌より、いくつかの句を挙げておきたい。


  夜なべして夜の硬さになつてゐる        大石雄鬼

  葭切やもう分かつたよ分かつたよ       浅沼眞規子

  暑中見舞いに大津絵の鬼が来る        大類つとむ

  百日紅目を瞑らずに子を孕む          瀬間陽子

  大公孫樹来し方未来語る喜寿          竹内實昭

  万緑の山千万の葉の光            佐々木貴子

  紫陽花の暗きに潜む地祇            大類準一

  唇音を紬ぐ糸瓜の呼吸かな          小田桐砂女

  雑踏をはこばれてゆく夏帽子          三宅桃子



       撮影・鈴木純一「針の目を通る兵隊あした死ぬ」↑

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