峰崎成規「臍の緒も渡世の悲喜も無き海鼠」(『遊戯の遠景』)・・
峰崎成規第二句集『遊戯の遠景』(角川書店)、帯文は能村研三、それには、
海外での仕事や地元行徳でのまちづくりに東奔西走の毎日を送る、峰崎さんは、多忙な日々に呑まれることなく、動き続ける世界を見詰めている。俳句に向かう時は、ギアチェンジをしてもう一人の私の眼から、世界を「遊戯の遠景」として眺め、俳句に作り上げている。それ故に詩性が宿り、そこから「物の見えたる光」が表出してくるのだろう。
推薦句
歳月を奪ひ去らむと野火走る
とあり、著者「あとがき」には、
(前略)この句集は、眼前に確固として存在する対象物を描写した句作りではなく、逆にそれを見詰めている自分の視点(心)の在りどころ、揺れどころを見つけるために詠み続けた行跡です。常夏の工場での仕事中も、地元の華やかな祭礼を仕切っている最中でも、夢中になっている当事者である私と、同時にそれをパースペクティブに見詰めているもう一人の私がいるのです。揺れ動く私の視点から見詰めた数多くの風景を『遊戯の遠景』として一冊に纏めてみました。
とあった。ともあれ、以下に、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
北辰の一途をほぐす朧の夜 成規
紅葉且つ散る尻ポケットにスキットル
日時計の時の切つ先風光る
この風に二度とは乗れず飛花落花
街を踏むゴジラの心地霜柱
謎解けて黒き団結蝌蚪の国
来客は子供の子供こどもの日
孑孑の明日飛ぶためのストレッチ
別るるも会ふも合掌蓮の花
芋の露おのおの抱く同じ天
地下出口また間違へる開戦日
拭ふことできぬ地蔵に花の雨
人類はみんな遠縁草の花
全山は風の音のみ滝凍つる
峰崎成規(みねざき・しげのり) 1948年生まれ。
友人の画家・美濃瓢吾筆による拙句の書が百枚を越えた。毎年一年分の句を纏めて送ると、選を受けた句が『写句』となって返送されて来る。「俳句は問答」と彼は言う。私この写句を、私の投げた問いに対する彼の答えとして受け止めて来た。
とあった。その中から、いくつかを挙げておきたい。
ピーちゃんのおはか原っぱ春の色
少女からはみ出してゐる素足かな
憲法のとてもシュールな熱帯夜
名月を待たせ置くなり厠窓
凩を呼びつけてゐる隙間かな
霊場に出口あるらむ明易し
尾行せよ炎昼をつげ義春を
大野泰雄(おおの・やすお) 1950年、大阪府生まれ。
美濃瓢吾(ミノヒョーゴ) 1953年大分県生まれ。
撮影・芽夢野うのき「自律神経失調いつから秋薔薇」↑
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