峰崎成規「臍の緒も渡世の悲喜も無き海鼠」(『遊戯の遠景』)・・


  峰崎成規第二句集『遊戯の遠景』(角川書店)、帯文は能村研三、それには、


 海外での仕事や地元行徳でのまちづくりに東奔西走の毎日を送る、峰崎さんは、多忙な日々に呑まれることなく、動き続ける世界を見詰めている。俳句に向かう時は、ギアチェンジをしてもう一人の私の眼から、世界を「遊戯の遠景」として眺め、俳句に作り上げている。それ故に詩性が宿り、そこから「物の見えたる光」が表出してくるのだろう。

 推薦句  

 歳月を奪ひ去らむと野火走る


 とあり、著者「あとがき」には、


 (前略)この句集は、眼前に確固として存在する対象物を描写した句作りではなく、逆にそれを見詰めている自分の視点(心)の在りどころ、揺れどころを見つけるために詠み続けた行跡です。常夏の工場での仕事中も、地元の華やかな祭礼を仕切っている最中でも、夢中になっている当事者である私と、同時にそれをパースペクティブに見詰めているもう一人の私がいるのです。揺れ動く私の視点から見詰めた数多くの風景を『遊戯の遠景』として一冊に纏めてみました。


 とあった。ともあれ、以下に、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  北辰の一途をほぐす朧の夜         成規

  紅葉且つ散る尻ポケットにスキットル

  日時計の時の切つ先風光る

  この風に二度とは乗れず飛花落花

  街を踏むゴジラの心地霜柱

  謎解けて黒き団結蝌蚪の国

  来客は子供の子供こどもの日

  孑孑の明日飛ぶためのストレッチ

  別るるも会ふも合掌蓮の花

  芋の露おのおの抱く同じ天

  地下出口また間違へる開戦日

  拭ふことできぬ地蔵に花の雨

  人類はみんな遠縁草の花

  全山は風の音のみ滝凍つる


 峰崎成規(みねざき・しげのり) 1948年生まれ。



    





★閑話休題・・大野泰雄個展〈陶、アッサンブラージュ、銅版画、俳句集など〉(~11月2日・土・まで。於:不忍画廊)・・



 いい加減な愚生は、案内状をよく見ておらず、先日は休廊の日に、本日は、経過観察の病院から回ったものの、開廊15分前で、思わず扉をのノックして、強引に潜り込んだ次第(失礼!)。ともあれ、満足して、句集『へにやり/大野泰雄詠むミノヒョーゴ筆』を求めた。その「あとがき」の中に、


 友人の画家・美濃瓢吾筆による拙句の書が百枚を越えた。毎年一年分の句を纏めて送ると、選を受けた句が『写句』となって返送されて来る。「俳句は問答」と彼は言う。私この写句を、私の投げた問いに対する彼の答えとして受け止めて来た。


 とあった。その中から、いくつかを挙げておきたい。


  ピーちゃんのおはか原っぱ春の色

  少女からはみ出してゐる素足かな

  憲法のとてもシュールな熱帯夜

  名月を待たせ置くなり厠窓

  凩を呼びつけてゐる隙間かな

  霊場に出口あるらむ明易し

  尾行せよ炎昼をつげ義春を


 大野泰雄(おおの・やすお) 1950年、大阪府生まれ。

 美濃瓢吾(ミノヒョーゴ) 1953年大分県生まれ。



     撮影・芽夢野うのき「自律神経失調いつから秋薔薇」↑

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