福田淑子「本当はみんな戦(いくさ)が好きだから握り締めてる平和の二文字」(『パルティータの宙(そら)』)・・
福田淑子第二歌集『パルティータの宙(そら)』(コールサック社)、解説は、鈴木比佐雄「生きものの命をパルティータの調べで宙(そら)の片隅から発信する人—福田淑子歌集『パルティータの宙(そら)』に寄せて」。帯文は桑原正紀、それには、
福田さんの裡に渦巻く混沌たる詩魂が、人間をみつめ、宇宙を感じ、楽音に耳を澄ますことで言葉を揺り醒まし、一期一会の結晶体として、ここに〈歌〉を立ち上がらせている。
とあり、また、鈴木比佐雄の解説には、
御真影燃やす映像何を問ふ「やめろ!」と叫ぶ元兵士ゐて
原爆投下燃ゆる少女の映像に元老兵士は何にを思ふや
生くるものの命に軽重あるならば問ふあの世にもある優劣あるや
これら三首によって福田氏は、二〇一九年に社会問題となった「表現の自由・表現の不自由」という、問題の本質を自らの社会詠として記している。国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の「表現の不自由展・その後」が、「撤去しなければガソリン携行缶を持って行き会場を燃やす」という強迫によって、三日間で中止に追い込まれた。問題になった昭和天皇の写真を使ったコラージュ作品が燃える映像作品、慰安婦を象徴する《平和の少女像》などの作品には、一人ひとりの命の価値は平等であり、天皇陛下の「御真影」だけの神格化を批判したり、慰安婦であった少女を忘れないで後世に伝えたい思いが込められている。しかし元兵士たちの「御真影」への思いを忖度する者たちは、かつて現人神であった「御真影」の存在者と原爆下で焼き殺された少女や慰安婦にされた少女たちの命の重さが異なると考えているのではないかと、福田氏は本質的な問題提起をしている。アーティストたちの表現の自由や問題提起する行為が、言論の批評においてされるのであれば問題はない。しかし福田氏はテロ行為を予告することによって表現の場を抹殺することが「御真影」という偶像崇拝を強要し、一人ひとりの「命に軽重」があることをみちめさせようとしていると危惧しているのだ。
とあった。そして、著者「あとがき」の中には、
表題の「パルティータの宙(そら)」はバッハのパルティータの曲へのオマージュである。バッハの組曲パルティータはそれまでの様式から多様性を追求した楽曲の編成になっているという。私たちの時代も地上を支配している上下の重力条件から自由に、のびやかに宙に拡がっていく歌を詠もうとの思いを込めたものである。
とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの歌を挙げておこう。
争ひの絶えぬ地上のゆふやけの うつくしきすぎるわけ教へてよ
亡き人も残されし人もないまぜに無伴奏パルティータの波が呑み込む
不邪淫(ふじゃいん) と法律盾に純愛をなじる「正義」の暴走止まらず
不悪口(ふあくこう) とても無理です許されよ口に出さぬも心がつぶやく
重力に解き放たれて離陸せん地球滞在あと僅(わづ)かわれ
歌うたふアンドロイドもわれわれも挙句(あげく)はオシャカとなるのでござる
土手畑で模擬原爆は炸裂し犠牲者四人は長岡の民
火葬場へ車は角を曲がりゆく弔笛(ちょうてき)長き余韻となりて
この地球(ほし)の消滅したる後のためプロキシマ・ケンタウリへ飛ばす宇宙凧
ラニアケア「無限の天空」とハワイ語で命名されし超銀河団
数十億の星が集まる重力場グレート・アトラクターとはあの世のことか
福田淑子(ふくだ・よしこ) 1950年、東京都生まれ。
★閑話休題・・今井聖VS筑紫磐井「『新興俳句の』の現在と未来」(第179回現代俳句協会青年部勉強会)・・
昨日、12月17日(日)は第179回現代俳句協会青年部勉強会「『新興俳句』の現在と未来」(於:浜松町・RIVERLD会議室)に出掛けた。予約定員35名は満席だった。愚生は、金子兜太肝いりで発足した第一期の青年部委員であり、初代部長は阿部完市だった。実働部隊は、二代目部長の夏石番矢で代行は須藤徹だった。勉強会と名がつく前に、全国各地で青年部シンポジウムを数回開催した。創設時は兜太の命令があったおかげで、様々な不評も活力に変えていた。が、当時の各地区の方々は、生意気盛りの若造の我々を励まそうと、シンポジウムへの動員を含めてよく協力支援していただいたと思う。現在の青年部は、すでに立派に独自の活動を展開している。愚生は久しぶりの参加であったが、今井聖と筑紫磐井の対談、問題提起も興味深いものだった。司会と論点整理は、鈴木光影がおこなった。ここでは、筑紫磐井が挙げた、期待できる可能性としての未来の俳句3句を紹介しておきたい。
ビル、がく、ずれて、ゆくな、ん、てきれ、いき、れ なかはられいこ
ヒヤシンスしあわせがどうしても要る 福田若之
会社やめたしやめたしやめたし飛花落花 松本てふこ
撮影・芽夢野うのき「岸辺に舟はまだ着かぬ幻冬」↑
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