遠藤勲「流れ星囁き洩れる糸電話」(『助六』)・・


 遠藤勲第一句集『助六』(ふらんす堂)、序は津久井紀代「遠藤勲第一句集『助六』に触れて」、その中に、


(前略)にらめつこ終に虎魚に勝ちにけり

    鬼やんま中央線と競ひけり

 遠藤さんの俳句の最大の特徴は滑稽である。

 遠藤さんの滑稽には憎めないおかしみがある。根底に知性があることによるものであろう。句会をいつも盛り上げてくれている。

    水澄むや掬へば映る空の青

    指一本アイヌの墓標秋の暮  (中略)

 遠藤さんの句は向日的でからっとしている。これはお人柄が句に表れているのである。いつも前を向いて歩かれていることに教えられることが多い。 

    げに我は逃げ水を追ふ漢かな

 滑稽句の代表である。どこかおかしくてどこかまじめで、正直で、どこか泣けてくる、それが遠藤さんなのである。


 とある。また、著者「あとがき」には、


(前略)

 理系の学徒であった小生にとって、俳句は難解であり奥深いと感じた。ともあれ小西甚一著『俳句の世界』、加藤楸邨著『芭蕉全句』、尾形仂著『芭蕉・蕪村』等を濫読した。句会の先輩である荒尾保一氏の勧めで学士会「草樹会」に入会した。その後、有馬先生が逝去され、津久井紀代先生が主宰された「天晴」に加入した。

 句集題「助六」は、好きな歌舞伎の演目であること、浅草で助六の屋号を受け継いでいる中学生の同級生がいたことによるものである。


 とあった。因みに、集名に因む句は、


   羽子板の助六がゆく花川戸        勲


 であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


   地震の後輪島に残る余寒かな

   春一番埴輪の馬が嘶けり

   油断にして小花つけたり猫柳

   マルクスが頷きて見る田植ゑかな

   虹渡りオズの魔法を見に行かむ

   夕焼けを同時に捕球せし投手

   縄跳びの弧に捕らはれし寒茜

   六方を踏み羽子板市へ馳せ参ず

   ベルグソン時間が止まる大晦日

   たたら踏み光の春を待ちにけり

   福は内万物流転鬼は外

   韋駄天をアキレスが追ふ箱根かな

   今年またかくてありなむ初湯かな


 遠藤勲(えんどう・いさお) 1940年、東京台東区生まれ。



 撮影・芽夢野うのき「生きるため行く病院でありたしひょんの笛」↑

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