根来久美子「短日や『ゆ』一文字の大暖簾」(合同句集第四号『紀尾井坂』より)・・


 合同句集第四号『紀尾井坂』(ソフィア俳句会)、序は根来久美子、その中に、


 ソフィア俳句会は、同窓会組織「上智大学ソフィア会」の正式登録団体である。すなわち、本学の卒業生の句会であり、主に、学内の同窓会の会議室を利用している。(中略)

 この句会は、本学卒業五十周年を迎えた方々で構成されている金祝燦燦会を母体として生まれた。上智大学には、卒業十五周年、二十五周年を記念して、それぞれ銅・銀・ルビー・金と名付けた祝典を催し、ラテン語の祝状を授与するという伝統がある。(中略)

 本学の卒業生であり、有季定型を重んじて下さる方ならば、どなたでもこも句会に入会いただける。これからも、俳句を楽しみながら同窓の絆を強め、大学や社会に少しでも貢献できるよう、励みたい。


 とあった。ともあれ、以下に、いくつかの句を挙げておきたい。


  つやつやの胸を反らせて初鴉       根来久美子

  初蝶や供華一輪の辻地蔵         五十嵐 克

  どの花も分銅となり八重櫻         江澤健二

  万緑を胸一杯に目で吸うて         鈴木占爐

  声出して読むみすゞの詩冬ぬくし      岩渕弥生

  あの山を越ゆれば信濃秋の虹       小池ザザ虫

  翠嵐の白神山地囀れり           鈴木 榮

  音叉よりラの音ヴィオロン冴ゆる宵    坂井都代子

  しやぼん玉己がいのちの在るままに     中村 剛

  星冴ゆるジャズ流れ来る司祭館       稲田幸子

  海平ら山笑ひをり東北忌         中岡まつ子

  ものの芽をほぐしつつ今朝の雨       和高怜子

  軒届くほどに積み上げ榾の宿        畔柳海村

  秋惜しむ生命線に日を掬ひ         後藤 洋

  梅真白いくたび戦火くぐり来て       野地陽花

  銀河濃き八丈に聴く波の音         中村明子

  道の駅松茸買ふは出来心          新山さむ

  いでたちは宇宙飛行士蜂退治      吉迫まありい

  春昼やプジョーゐさうな石畳      くにしちあき

  八月は鎮魂の月生れし月         門倉百合子

  ものの芽のつぶやき初むや反戦歌      岩瀬深雪

  父のメモ剥されぬまま秋幾度        田中香文 

  無表情の人形遣ひ実朝忌          山田知子



★閑話休題・・金子兜太「曼殊沙華どれも腹出し秩父の子」(開館35周年記念企画展「金子兜太 しかし日暮れを急がない」/座談会「兜太作品の原点を語るー第一句集『少年』・第二句集『金子兜太集』を中心にー)・・


 開館35周年記念企画展「金子兜太展 しかし日暮れを急がない」/座談会「兜太作品の原点を語るー第一句集『少年』・第二句集『金子兜太集』を中心に」(於:山梨県立文学館 講堂)、座談のメンバーは高野ムツオ・高山れおな・佐藤文香。金子兜太展は、2024年11月24日(日)まで、とまだ期日を残している。11月9日(土)13時30分~15時は映画会「天地悠々兜太・俳句の一本道」(2019年河邑厚徳監督作品)・300名入場無料が開催される。

 金子兜太については、愚生も色々思い出があるが、世代が違う上記三名の座談も、兜太初期の作品めぐって、活発に面白く展開された。公園の銀杏もかなり、黄色く色づいていた。

 ともあれ、以下に、配布資料(三名が選んだ句)から、各人の作品をいくつか上げておこう。


  白い人影がるばる田をゆく消えぬために     金子兜太

  被弾のパンの樹島民の赤児泣くあたり       〃

  きよお!と喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中    〃

  木曾のなあ木曾の炭馬並糞(ま)        〃

  縄とびの純潔の額(ぬか)を組織すべし      〃

  なまことレモンで満たす朝日のなかの飢餓     〃

  

  体操少女暮れては繭の光りの輪        高野ムツオ

  結氷期子は鍵盤となり眠る            〃


  月の裏にて玉砕がつづきをり         高山れおな

  麿、変?                    〃

  

  水加減見に行つたきり敗戦日          佐藤文香

  歯ぶらしや雀の視野にわが暮し          〃 


 
      撮影・芽夢野うのき「秋風は扉を閉じたり開いたり」↑

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