中西厚子「露光り一瞬の生全うす」(『深遠』)・・
中西厚子第一句集『深遠』(文學の森)、序は高橋将夫「序に代えて」、その中に、
(前略)俳句は精神(心)の風景と常々思っているが、彼女の作品は主幹を大胆に表出しているところに特徴があると思っている。
露光り一瞬の生全うす
露の玉がキラリと光ってこぼれた瞬間の写生句。「一瞬の生全うす」が彼女ならではの主観の表出。光ってこぼれた露の玉の美しさもさることながら生を全うした命の姿に見えて作者は感動したのだと思う。主観は抑えるべきとも言われるが、言わなければ読者に伝わらないことだってある。
とあり、また、著者「あとがき」の中には、
(前略)タイトルの『深遠』についてですが、私は宇宙の始まりや終焉などに並々ならぬ興味を持っております。未だ解明されていないことは数多くあり、それは人智を超えた神秘であると感じます。しかし、この広い宇宙のどこかに深い理解力が存在することを、私は震える思いで確信しております。俳句もまた奥深い文芸であると思います。突き詰めるほどに新たな発見や喜びを感じます。宇宙も俳句も内容が深くて、容易に計り知れないという意味から、このタイトルにいたしました。
とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。
長き夜虚数と遊びゐたりけり 厚子
生者にも死者にも笑みし竜田姫
春の闇邪気と情けが同居する
終点は始点に変はる秋の駅
凍る夜無限ルーフの中に居る
異次元へ続いてをりし蜷の道
春の宵鬼の棲処となりにける
短調に転調したる梅雨の入り
秋澄みて結界を見る曲芸師
人の世を印象操作する秋雨
雪だるま完成すると壊される
到達が始まりになる今朝の秋
三叉路で春一番が絡み合ふ
引力と斥力の合ふ恋の春
中西厚子(なかにし・あつこ) 1956年、大阪府守口市生まれ。
撮影・中西ひろ美「だいじなところに落ちるのだよ露は」↑
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