石山ヨシエ「その蔓で絞めてくれぬか葛の花」(『砂柱』)・・


石山ヨシエ第三句集『砂柱』(ふらんす堂)、帯文は鳥居真里子、それには、


   寒暁の光砂柱に及びけり

 砂丘という静寂が生む沈黙の鼓動。移ろう季節のなか、幽玄と神秘が織り成す風土に、寄り添う作者がいる。

 句集『砂柱』全編に広がるのは紛れもなく自身の生きるという沈黙の鼓動である。


 とあり、また、著者「あとがき」には、


 この第三句集は二〇一一年から二〇二四年前半までの作品の中から、自註句集に纏めた作品を除いた三四八句を収めました。

 その間、鈴木鷹夫先生と鈴木節子先生が他界され、心の空洞を埋めることの出来ない時期もありました。またコロナという未曽有の感染症により家に籠る日々が続きました。そのような歳月にあって、傍らに俳句があったことでそれなりに平常心を保つことが出来たのではと感じています。(中略)

 句集名の「砂柱」は「寒暁の光砂柱に及びけり」から採りましたが、四季の中でも砂柱の現れる厳冬の砂丘がとりわけ好きなことにもよります。


 とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。

  

  雪眼鏡はづしこの世の白さ言ふ        ヨシエ

  放哉忌狂ふほどには燃えぬ火よ

  鷹夫忌の白極まりぬ梨の花

  あまたなる翅を引き寄せ蕎麦の花

  その中にひとすぢの銀ひばりの巣

  竹藪に未生のぬくみ寒の入り

  春水に水の階段ありにけり

  牧囲ふ神火となりてななかまど

  雪激し戦場も斯く雪降るか

    悼 鈴木節子先生

  天上へ桜吹雪のやまざりき

  梟に火照りし耳をあづけたり

  掠めしは雨か火の粉か鬼やらひ

    悼 黒田杏子様

  鳥雲にかの一言(いちごん)を反芻す

  流木に鳥の骸に霾れり

  しやぼん玉一つが逸れて大空(たいくう)

  炎天へ首真つ直ぐに人類は

  冬三日月羽あるものを覚ましけり

  抱きしめねば何かが崩る春の星

  心音に消ゆるまぎはの春の虹

  

 石山ヨシエ(いしやま・よしえ) 1948年、鳥取県生まれ。

 


  撮影・中西ひろ美「翁媼(おうおう)の仲良きことも秋日和」↑

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