救仁郷由美子「遠逝を生きて今此処大花野」(「豈」66号より)・・


 第4次「豈」66号(豈の会)、 メインの記事は、「第8回攝津幸彦記念賞」に、特集は「救仁郷由美子全句集」と「私の雑誌」。愚生は、二年前より、編集実務については、殆ど関与せずにすんでいる(名前だけは顧問で残してくれているが)。それはこれまで、愚妻の介護などに配慮をしてくれた発行人・筑紫磐井が、すべての実務を印刷会社に委託するなどして、孤軍奮闘しているのが実状だ。

 ところで、特集「私の雑誌」だが、「豈」同人の中には、長い年月の間に、主宰者や他の俳誌の代表が多く誕生したので、その持ち場の雑誌を紹介しようというものである。目次を挙げておくと、加藤知子「『We』はうぃ。っと楽しもう」、川名つぎお「『頂点』59年の終焉録」、小池正博「『川柳スパイラル』の現在」、佐藤りえ「生存報告系個人誌『九重』の真実」、佐藤りえ「書き続ける装置としての『俳句新空間』」、高橋修宏「『五七五』という場(トポス)」、羽村美和子「『ペガサス』多様な個性と俳句観に導かれ」、樋口由紀子「川柳誌『晴(はれ)』ピーカンの日に」、干場達也「『トイ』小さい句誌小さい歴史」、森須蘭「『祭演』しょっちゅう躓いている」、山﨑十生「紫ものがたり」、山本敏倖「わが『山河』のルーツとその変遷」、大橋愛由等「『月刊MAROAD』奄美の俳句を考える」。

 第8回攝津幸彦記念賞は正賞なし。准賞2名のみ、斎藤秀雄「藍をくる」と川崎果連「むやみにひらく」。ここでは、今回の選者(なつはづき・羽村美和子・大井恒行・筑紫磐井)による選評の中に引かれた句を挙げておきたい。


  月花や遥かけぶれる渾天儀          斎藤秀雄

  ひらがなのむやみにひらくひからっか     川崎果連

  ゆりごはん上手にまぜて猫の恋     うにがわえりも

  象が象とろりと孕む朧かな          髙田祥聖

  噓つきの月のかたちに亀鳴けり       村瀬ふみや

  麦秋の真ん中で鳴るJアラート       木村オサム

  騒がしい沈黙亀が鳴いている          上峰子

  後ろより掴めば在らぬ野菊かも        表健太郎

  春風や戦ふためのつけまつげ         摂氏華氏

  春の星AIはつくれない           井口可奈 

  土筆、雨、姉妹の真ん中に奇数            楠本奇蹄     


  持ってかれた

  サラダの代わりに

  カリフラワーを

  食べる                   奥平彩子


  鶯や丹波の国を独りじめ           城貴代美

  山折り線を逸れて蜥蜴の尾の長し       鈴木健司

  夕凪を束ねて塔はまだ気配           未 補

  天幕に月の透けたる訳詩かな         とみた環

  秋暑しおとこあれこれぶら下げて       飯田冬眞

  蛍狩娘と娘のやうなのと           田中泥炭

  冬瓜に抱きつかれたる御新造         九里枕流


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次回、第九回攝津幸彦記念賞募集は、

●未発表作品30句(川柳・自由律・多行も可)

締め切り 令和6年5月末日

●書式 応募は郵便に限り、封筒に「攝津幸彦記念賞応募」と記し、原稿(A4原稿用紙)には、氏名・年齢・住所・電話番号を明記してください(原稿は返却しません)

●選考委員 未定

●発表 「豈」67号

●送付先 183-0052 府中市新町2-9-40 大井恒行 宛

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 ちなみに「豈」66号「あとがき」(筑紫磐井)には、


 (前略)「豈」の歴史も40年を経過し、同人の活動も多種多様である事に感慨をいだいた。のみならず、倒れるまで走り続ける気概に勇気づけられるおもいだ。「or last」で始まった「豈」が「or last」で終わる日までよろしくご協力いただきたい。


 とある。その他、書評欄には、外部の方々からの寄稿もいただいた、記して感謝申し上げる。

 江里昭彦「託宣のごとく、宣戦布告のごとく――井口時男『その前夜』」、太田かほり「学び敬い語り継ぐ一書 ――池田澄子『三橋敏雄の百句』」、中山奈々「The Sleep of  Reason Produces  Monsters ――小池正博『海亀のテント』」、岡田幸生「諧謔の花――佐藤りえ『良い闇や』」。その他、新同人の一句は、

  

  風の木にかの色鳥のすぐ消ゆる      野木まりお



      撮影・中西ひろ美「小鳥来る一粒万倍日の一花」↑

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