石田郷子「秋の蜘蛛神さびの威を張りにけり」(『万の枝』)・・


 石田郷子第4句集『万の枝』(ふらんす堂)、その「あとがき」には、


 『万の枝』は、『草の王』以後九年間の作品を収めた第四句集である。

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行を経て、ようやく対面での句会が復活し、「椋」誌もこの秋には創刊の二十周年を迎える。私も、この句集を一つの区切りとしたかった。


 とあった。本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  悲しみも春もにはかに来るらしき       郷子

  古徳利十五夜花を高く挿す

  大鷺のたてばつくづく冬ざるる

  白梅のにじむどんなに見詰めても

  あじさゐを曲がれば居なくなるごとし

  いづこから見ても逆光春の鳥

  干し物の影とぶ日脚伸びにけり

  手庇のしばらくとらへ春の鷹

  卯の花のケーキのあとのお煎餅

  薄ら日やにはとこの芽のふつさりと

  このところ亀鳴くことの多かりき

  六月のこんな雨にも歩き出す

  山の墓なれど供華あり風の秋

  花柊うつむきて貌失へる

  木の花のこぼれ止まざる泉かな

  そこにゐるはずの人呼ぶ冬はじめ

  北風に出づ拳なら二つある

  亡き人と聴く七月の蜩は

  杉の香のこもつてゐたる初氷


 石田郷子(いしだ・きょうこ) 1958年、東京生まれ。

  


     撮影・中西ひろ美「何の実が成るとも知らず通り雨」↑

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