藤井あかり「末伏の闇から鴉剥がれけり」(『メゾティント』)・・


 藤井あかり第二句集『メゾティント』(ふらんす堂)、近年には珍しいシンプルな「あとがき」に、


 いつもお導きいただき、この度は序句を賜りました石田郷子先生に、心よりお礼申し上げます。

 また、お力添えくださいましたふらんす堂の皆様に感謝いたします。


 とのみあった。序句は石田郷子、


  さやけさの風の扉を押しにけり     郷子


 ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  扉を叩くための拳や春北風        あかり

  藪椿静かとつぶやけば響く

  春寒の便箋に字を沈めゆく

  淡雪や遥けく鳴りし体温計

  真清水を掬ぶ全身を醒めにけり

  さざ波は何も沈めず青芒

  二度会へば声憶えたり鳳仙花

  長き夜の二人眠らず眠らせず

  蟻殺す二匹目も殺してしまふ

  蔦の戸の開かれてゆくナラタージュ

  胸に火の回る速さや冬河原

  イヤホンの中の爆音凍返る

  花冷の時計に差せる針の影

   「秋水に幼な子の名を訊きかへす 郷子」に

  立つ風と書きて子の名や露時雨

  洗ひたる手をまだ洗ひ秋の水


 藤井あかり(ふじい・あかり) 1980年、神奈川県生まれ。



      撮影・中西ひろ美「青きもの熟れて傷つき地へとどく」↑

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