岩片仁次「毛野の/たてがみ/今は倒れて/みなすすき」(『群馬百人一句α』より)・・


  林桂編著『群馬百人一句α』(鬣の会・風の花冠文庫・税込1000円)、その「あとがき」に、


・本書は群馬ゆかりの俳句作品をまとめたものである。(中略)

・作家・作品は一党一派に偏ることなく対象を広くし、収録した。従って「俳句」の名の下に発表されている有季、無季、自由律、多行表記なそ、そのほとんどを含む多岐にわたる詞華集となっている。それはそのまま俳句表現の豊かさの表現となっているものである。現時点で、群馬に関わる最も優れた俳句詞華集であると自負する。(中略)

 

 とあり、巻末には、索引として、「作者五十音順」「作者生年順」「詠地市町村別(五十音順)が付いている。中の一例のみだが、示しておくと、


 夏石番矢

 谷空の鳥へ投石続くなり

 

 上野村吟行の作。深い多野の渓谷の上を悠然と飛ぶ猛禽類は、目線の高さを飛びかのようだ。思わず石を放りたくなる距離感である。無季句。夏石番矢は、1955年(昭30)年生まれの俳人。俳句誌「吟遊」代表。世界俳句協会代表。明治大学教授。現代俳句協会賞。モンゴル作家協会最高賞。

                  (『猟常紀』静地社・昭和58年)より


以下には、収載された句のみだが、いくつか挙げておきたい。


  里芋の芋串(く)し梅見団子かな      矢島渚男

  うれしい牛の背でみる片原饅頭屋      阿部完市

  杖よどちらへゆかう芽吹く山々      種田山頭火

  ただ在るを陽はつつみたり広瀬川      那珂太郎

  白樺のしんしん 沼の蒼しんしん     伊丹三樹彦


  電柱の

  キの字の

  平野

  灯ともし頃                高柳重信


  郭公の山や一湖を加へたる         村越化石

  ここは牧場光る揚羽に手をあげて     野見山朱鳥

  榛名万緑の押しのびるなり         小澤 實

  草笛をぴいぴい鳴らし上毛へ        小林貴子

  夢に立つ不二は榛名や虫しぐれ       三橋敏雄

  月に吠える犬一代の広瀬川         清水哲男

  前橋は母の故郷霜夜明け          星野立子

  一村のしぐれはじまる峠口         石 寒太

  凩の碓氷は悲し海の色           石井露月

  上州や 鈍(にび)いろの雲 暮れのこり 富澤赤黄男


 林桂(はやし・けい) 1953年、群馬県生まれ。


            「鬣TATEGAMI」第92号・ 深代響『水月伝』書評↑

★閑話休題‥夏石番矢「La Re’volution japonaise(にっぽん かくめい)無し 濤の秀(ほ)を打つ霰 」(「鬣TATEGAMI」第92号より)・・


 「鬣」つながりで「鬣TATEGAMI」第92号(鬣の会)、特集は「夏石番矢の百句を読む」。夏石番矢自選百句、論考に深代響「『私は水』ー夏石番矢における記憶と覚醒」、中里夏彦「単独の越境者 夏石番矢との遭遇」、外山一機「身体との饗宴ー夏石番矢再読ー」、池田楠「夏石番矢の体幹」、一句鑑賞は水野真由美・堀込学・林桂・瀧澤航一・佐藤清美・後藤貴子・大橋弘典・青木陽介。その他に、「報告」として、井口時男「講演『喩の力ー震災俳句を中心に』要旨」、水野真由美「林桂講演『俳句の群馬ー俳句を書くことと読むこと』/俳句の総体を引き受けて書く」、また九里順子の連載「詩の外包 24/北園克衛、『白』の時代」等々。以下には本誌より、夏石番矢の句を少し挙げておこう。


  降る雪を仰げば昇天するごとし       番矢

  未来より滝を吹き割る風来たる

  (テン)ハ固体(コタイ)ナリ山頂(サンチャウ)ノ蟻(アリ)ノ全滅(ゼンメツ)

  すなあらし私の頭は無数の斜面

  アラビア文字に絡めとられて空飛ぶ法王


 末筆になるが、深代響による愚生の句集『水月伝』書評が掲載されている(上掲写真)。焦点を絞っての評、有難うございました。



   撮影・芽夢野うのき「逢えるだけ逢っておこう名の秋を」↑

コメント

このブログの人気の投稿

田中裕明「雪舟は多く残らず秋蛍」(『田中裕明の百句』より)・・

救仁郷由美子「遠逝を生きて今此処大花野」(「豈」66号より)・・

小川双々子「風や えりえり らま さばくたに 菫」(『小川双々子100句』より)・・