栗林浩「添水鳴ると分かつてゐても構へける」(『あまねし』)・・


  栗林浩第3句集『あまねし』(角川書店)、著者「あとがき」に、


 この句集『あまねし』は、第一句集『うさぎの話』(二〇一九年六月)、第二句集(SMALL ISSEUE』(二〇二二年六月)につぐ第三句集です。三句集とも二九五句に絞りました。(中略)

 第一および第二句集の際は、思いの丈を入れこんで構成いたしましたが、今回は多くの句集のパターンに倣い、四季別にいたしました。ただし、第二句集から余り日がたっていませんので、時系列には従っていません。通底するテーマは「日常の生活と旅、そして命」といったものに目を向けて「あまねく」詠んだつもりであります。


 とあった。集名に因む句は、巻頭に置かれた、


  この慈光あまねかるべし初山河        浩


 ではなかろうか。ともあれ、愚生好みになるが、以下にいくつか句を挙げておきたい。


  大旦国旗に深きたたみ皺

  木と紙の家に梅の香水の音

  名水は温むことなし初つばめ

  かげろふのゆらりかみんぐかうとかな

  父の日の口に淋しき桜の実

  合歓咲いてむかしの風の吹く日かな

  飛魚(あご)とぶや刹那を鳥になりきつて

  無花果をひらけばあまたちさき花

  菊人形わらはぬ眼ふたつづつ

  墓碑に「寂」ほかには「空」と枯葉風

  山らしき山なきロシア国境 冬

  雪二尺誰も作らぬ雪だるま

  草の戸に蓑・笠・棒(ぼ)つこ・竹馬も

  ポケットに去年の冬の浄め塩

  大願は鬼にもあらむ鬼も内


 栗林浩(くりばやし・ひろし) 1938年、北海道生まれ。



撮影・芽夢野うのき「シオカラトンボしずかな渚の波を追い」↑ 

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