岡田耕治「楊梅を摘む一瞬の力抜き」(『父に』)・・


 岡田耕治第4句集『父に』(銀河書籍・税込1100円)、解説は久保純夫「受容と均衡―—岡田耕治句集『父に』ついて」、その中に、


(前略)肯定と否定をほどくシャワーかな

 体験を経験とする力。つまりは、わが身が被ったひとつの事件を擦過するだけではなく、変容として定着させているのだ。そのあたりの内容はたったひとつの助詞「を」を発見したことでも判る。それがこの句である。

   自らの重みを落ちる海鼠かな

読者はこの覚悟と自覚を正視せよ。(中略)

   没年であり生年を送りけり

『父に』の最後に収められた句である。

没年という語の内容はすぐ理解できる。

生年をどう捉えたらよいのか。現況の社会状況を思い浮かべると、ひとつの答が導き出されるような気がした。ガザやウクライナから伝えられる赤ん坊の死なのかと。作者の立場となると、そうでもないらしい。やはり「父に」の範疇だった。

岡田耕治からすると、父であり、孫という存在。なるほど、掉尾に相応しい。ここから新しい展開が始まる。


 とあった。また、著者「後記」には、


  師である鈴木六林男は、よく次のように私たちを指導した。年の初めに自分がどんな俳句を書きたいかというテーマを設定し、そのテーマに向かって俳句を書いていくように、と。(中略)

 この年のテーマである「戦争と気候変動の時代、読み手に生の肯定を届ける俳句」は、「父に生の肯定を届ける」という思いでまとめることにした。本句集名も、このような経緯で、『父に』とした。(中略)

 鈴木六林男師から、俳句は三人に通じたらいいと指導されました。その内の一人は自分自身だと。久保純夫さんと私、そして本書を手にされたあなたが、三人目となってくだされば、何よりの幸せです。


 とあった。巻尾には、自筆年譜も添えられている。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、以下にいくつかの句を挙げておこう。


  大きさを保っていたり懐手         耕治

  春の雷先師の声を近くする

  点眼に直前のあり風光る

  亡き人が先にみており雛飾

  振って出す万年筆のさくらかな

  方舟と別に流され落し文

  さくらんぼ種出してより甘くなる

  ばったんこ起こるべくして起こりけり

  本人を確かめている薄氷

  冷し酒はじめに水をふくみおり

     父逝く

  線香を立てそうめんをすすり合う

  白骨となりたる熱を引き出しぬ

  フルートを吹く直前の虫の声

  蓮の実あらゆる声に向いてあり

  冷たさを磨いてゆけりカトラリー

  

 岡田耕治(おかだ・こうじ) 1954年、大阪府生まれ。




★閑話休題・・YOーEN唄会「黄昏に恋して⑳」(於;国立駅前・ギャラリービブリオ)・・

     

 昨夕は、シンガーソングライターYO-EN(ヨーエン)唄会「黄昏に恋して⑳」(於:ギャラリービブリオ)に出かけた。愚生の府中からは30分程度で行けるので、散歩がてらにちょうど良いのだ。畳敷きの築60年の家屋なので、約20名は予約で満席だった。明日18日(日)16時から、2日目の唄会が開催される。

 次回の唄会㉑は11月2日(土)と3日(日)。その直前の10月26日(土)に「八木重吉忌日イベント茶の花忌」(於:町田市・八木重吉記念館)に歌のゲスト出演が待っている、という。唄会は、愚生の楽しみの一つなのだ。また、ユーチューブでは新作動画もアップされているらしい。

 


       
撮影・中西ひろ美「雨待ちの一色となる虫送り」↑

コメント

  1. 大井恒行さま 早速私の句集を取り上げていただき、ありがとうございます。励みになります。

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    1. いつも「香天」お送りいただきありがとうございす。

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