広渡敬雄「根の国も照らす線香花火かな」(『風紋』)・・


  広渡敬雄第4句集『風紋』(角川書店)、著者「あとがき」には、


 このたび、平成二十八(二〇一六)年から令和五(二〇二三)年末までの作品から、三三三句を自選して、第四句集『風紋」にまとめた。

 風紋は、津波で亡くなった方も含め、冥界の懐かしい方からの便りと思うと愛しい。(中略)

 日本の灯台は、徐々に無人となり、平成十八(二〇〇六)年には完全に無人化となった。現在の日本に有人灯台はない。

 山登りの途中で、荒れた茶畑や朽ちた猪垣、廃屋をよく見かけるが、家の中には大きな冷蔵庫が現役のように残っていることがある。そういう時、そこで暮した人達の営みを記憶に残したいと思う。


 とあった。集名に因む句は、


     東日本大震災から五年・気仙沼

  風紋は沖よりのふみ夕千鳥          敬雄


 であろう。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下に、いくつかの句を挙げてぽきたい。


  クリアファイル重ねて曇る山は秋

  朧夜の灯すことなき浮御堂

  浅間山(あさま)には浅間隠山(あさまかくし)や雪催

  山開き空葬(からとむら)ひの友ありし

  御来迎彼の世の我に手を振りぬ

       御来迎:高山の頂上で日の出、日没の時、太陽を背にして立つ

       と自分の影が全面の霧に映り阿弥陀仏が光背を負って来迎する

       ように見える現象。いわゆるブロッケン現象をいう。

  寒行のいつさい滝を仰ぐなし

  荼毘に付すもう昼寝せぬ子となりて

  振る塩を弾く喪服や夏の山

  きのふよりけふは明るし銀杏散る

  弔ひの叶はぬ死ありけふの月

  タンカーは空荷であらむかひやぐら

  慰霊碑なき軍犬軍馬散るさくら

  絵師彫師摺師版元初仕事

  果のなき戦火に松を納めけり

  

 広渡敬雄(ひろわたり・たかお) 1951年、福岡県遠賀郡岡垣町生まれ

 


       撮影・芽夢野うのき「胸に抱く精霊流しの一燈を」↑

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