行方克巳「戦跡の露の一斉蜂起かな」(『肥後守』)・・

 

  行方克巳第9集『肥後守』(深夜叢書社)、その帯に、


  炎昼の音叉のごとくすれ違ふ

 明滅する生と死のつらなりに目を凝らし、犀利な感性と諧謔の精神で掬われた245句―—

 ポエジーと洞察が交錯する瞠目の第九句集。

 一行が孕む物語


 とある。また、著者「あとがき」には、


 私にとって俳句とは、「季語発想による一行のものがたり」と考えるようになった。

 ずいぶん前から、「深夜叢書」から句集を出すことを決めていたのだが、齋藤愼爾が亡くなってから出版するとは思ってもみなかった。句集の中に、彼を悼む句があるなんて、なんともさびしい限りである。(中略)

 『肥後守』は、『晩緑』につぐ私の第九句集になる。題名は、

   肥後守蛇の匂ひのこびりつき

 からとった。私の裡なる「少年A」の物語である。


とあった。ともあれ、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  死ぬあそびおしろいばなの化粧して      克巳

  秣ほども薬出されて十二月

  筏んさし柵(しがらみ)なして散紅葉

  遠足のカババカカバと通りけり

  戦争は遠くて近し犬ふぐり

    齋藤愼爾死す

  花の雨飲食嫌になりにけり

  考へる蟻とはなまけものの蟻

  死がありて死後がありけり金魚玉

  晩緑やあと十年で片が付く

  渡御筋を丸洗ひせし白雨かな

  父の日のなき歳時記を持ち古りし

  てんしきの五連発とは生身魂

  奥の手も逃足もなく蓑虫は

  ノンステップバスに躓き秋の暮

  灯火親し見ぬ世の友と見しひとと

  誕生も死も海染めて鯨の血

  老来の企み一つ春を待つ


 行方克巳(なめかた・かつみ) 1944年、千葉県生まれ。


 


        芽夢野うのき「百日紅ひと日は彼岸の色をなす」↑

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