髙柳蕗子「波を背にかぶりつつかがむてのひらに毛が生えているやさしいひと」(『海のうた』より)・・
左右社編『海のうた』(左右社)、約100首の「海のうた」を収載し、巻末に、各作者の略歴と歌の掲載ページと歌の出典が記されている。編者は左右社編集部、編集は筒井菜央とある。ともあれ、本集より、アトランダムになるが、いくつかの歌を挙げておこう。
釣り船のあかりと星とを分かちゐし水平線が闇にほどける 光森裕樹
海とパンがモーニングサーヴィスのそのうすみどりの真夏の喫茶店 正岡 豊
さあここであなたは海になりなさい 鞄は持っていてあげるから 笹井宏之
海を見よ その平らかさたよりなさ 僕はかたちを持ってしまった 服部真里子
光るゆびで海を指すから見つけたら指し返してと、遠い契約 石川美南
傾くとわたしの海があふれ出す いとこのようなやさしさはいや 田中 槐
殴り合いみたいなキスをしたこともカウントせずに始発で海へ 枡野浩一
海に血を混じらせながら泳ぎ切る果てにしづかな孤島を見たり 山田 航
机にも膝にも木にも傷がありどこかで海とつながっている 江戸 雪
海に来てわれは驚くなぜかくも大量の水ここにあるのかと 奥村晃作
いつか くる おわりを みないで すむように さかなは うみから/でませんでした
多賀盛剛
携帯電話海に投げ捨て響かせる海底世界にきみの着信 小島なお
愚か者・オブ・ザ・イヤーに輝いた俺の帽子が飛ばされて 海へ 穂村 弘
その海を死後身に行くと言いしひとわたしはずっとそこにいるのに 大森静佳
みっしりと寄りあう海の生きものがみんなちがってうれしい図鑑 佐藤弓生
海沿いできみと花火を待ちながら生き延び方について話した 平岡直子
海の画を見終へてひとは振り向きぬその海よりいま来たりしやうに 川野芽生
海を背にしていることも強みとし君はやさしい夏を打ち切る 吉川宏志
寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら 俵 万智
遠浅の海にひたした足がなくなっていく帰らなくちゃいけない 井口可奈
撮影・鈴木純一「雨あがる冷し中華のハム細く」↑
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