夏木久「不均等に昼夜を分かつ喜劇かな」(『風詩夏伝・巻一/ベルヌーイの飛翔ーYou can fly anytime anywhere.』)・・


  夏木久句集『風詩夏伝・巻一/ベルヌーイの飛翔ーYou can fly anytime anywhere.』・『風詩夏伝巻二/時の流体力学ー柿本朝臣人麻呂の秘策』(文彩堂出版)、奥付を見ると、巻二が2024年6月23日、巻一が9月8日となっていて、巻二が先行している。ただ同時に届いているので、作者自身の何らかの思い入れのある日付となっているのであろう。装幀は姉妹版なれど、巻一と寒二では全く趣向も違うし、句のスタイルも違う。この人の才気を思わせる。「あとがき」らしいものはあるが、巻二に「〈あとがき〉に代えて」で、多行表記の句が三句掲載されているのみである。そのうちの一句は、


  月光は

     一度

       水底

  翔ぶための


 である。各章立てなども作者の志向に貫かれていて、愚生には、紹介しきれない。興味のある方は、是非、本書に当たられたい。定価も税込み一冊1320円、合計2640円とお買い得感あり。ともあれ、まず、巻一から、いくつかの句を挙げておこう。


  飛翔する機影に微笑ベルヌーイ       久

  空蝉へ“You can fry“と返信す     

  彷徨へば花は筏を組む始末

  国境なき蒲公英を踏む軍靴

  出し抜いた春一番にある苦渋

  絨毯に乗って手を振る冬銀河

  秋口に死後が尋ねて来てをりぬ

  モナリザを額に監禁して夜遊び

  人類は地球に謹慎してFIre

     寒月光 枯山水の曲水へ

  箪笥より明日の影を出しておく

  金箔や辛苦の染みは剥落し

  

 そして、巻二は、




  巻三雑歌(巻三以降・何某天皇の代の記載なし)

 古人k朝臣、羇旅の歌八首の一つとして「天離 夷之長道従 恋来者 自明門倭嶋所見(三・255)詠じ、現人Q「春灯し生けるともなし死せるともなし」と、〈水底の歌〉を三度読みつつ句業

   ひさかたの

   あめより

   こよひ

   あめふらし

 *天離る長道ゆ恋ひ来れば明石の門より大和島見ゆ(三・255) 

  

  「古人K朝臣」も「現人Q」も、仮構された自身の「久」であろう。ここでは、「*砂*漠*酒*場*組*曲*Ⅱ*」の章の「砂漠のバーに入り浸るー1・Bar〈ゴビ〉」から巻頭の句と巻尾の句を挙げておこう。


  其処からは闇を予感の花筏

  明星に馬車繋がれて初御空


 夏木久(なつき・きゅう) 1951年、大阪市生まれ。現福岡市在住。



★閑話休題・・大井恒行「流浪。反骨・異端・星雲・てんと虫」(「毎日新聞」6月27日・坪内稔典『季語刻々』)・・


 6月27日(木)毎日新聞朝刊・坪内稔典「季語刻々」に、


(前略)流浪とは「反骨・異端・星雲・てんと虫」だというのだが、最後に季語「てんと虫(テントウムシ)をおいたところがいいなあ。(中略)この作者、ボクの学生時代の知己、いまや長老だ。


 とあった。思えば、愚生は、坪内稔典を見続けてきた。愚生から見ると、坪内稔典なくしては、現在只今の現代俳句のシーンは無かったと言っても過言ではないだろう。功績は大きいと思う。



        撮影・鈴木純一「北国の空青ければ蚊は寂し」↑

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