山本潔「花ゆうな少年の読む平和の詩」(『草莱』)・・
山本潔第二句集『草莱』(東京四季出版)、その「あとがき」に、
『草莱』は『艸』に続く私の第二句集である。二〇二〇年春から二三年冬までの三三五句を収めた。新型コロナウイルスの出現で世界が混迷を深めた時期と重なるが、俳句を休もうと思ったことは一度もなかった。非日常的な暮らしを強いられるなかにあっても、むしろ俳句は生きる力になってくれると信じていた。(中略)
句集名は「艸」主宰雑詠欄の「草莱抄」にちなんで名付けた。「草莱」とは、草原、草叢のほか、未開の地という意味がある。混沌とした時代―—世界は常にそういうものかもしれないが―ーにあって、俳句は己のなかにある詩的感覚やことばの未開の領域を開いてくれるものだと感じている。庭の草叢も手をかければ美しい花が咲き、樹木が育てばいつしか鳥もやってくる。これからも「草莱を開く」気持ちを失わずに俳句と向き合ってゆきたい。
とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。
マスクしてマスクを探す青鮫忌 潔
夏草やアンリ・ルソーに謎多し
地球から銀河の外へ絵双六
魂は一人にひとつ寒卵
なに着ようかしら憲法記念の日
熱々のナンをカレーに敗戦日
十二月八日ガラスのスヌーピー
母永眠
数へ日を数へず独り逝きたまふ
北斎の星は動かず冬の山
天国と地獄のほかに梅の里
廻廊の水かげろふを抜けて春
うさぎやのどらやき買ひに菊日和
今生を浮いて沈んで雪ぼたる
山本潔(やまもと・きよし) 1960年、埼玉県秩父市生まれ。
★閑話休題・・「大井恒行句集『水月伝』/厳しい現実を透視する視座」(6月21日「長周新聞」第9131号)・・
「長周新聞」6月21日(金)、第9131号(長周新聞社)の4面書評欄に「大井恒行句集『水月伝』/厳しい現実を透徹する視座」が掲載された。しかも、これまでの他の新聞では見られなかった的確な評をしていただいた。深謝!それには、
東京空襲アフガン廃墟ニューヨーク
句集冒頭のこの一句が、、この俳人の現代に向き合う精神を象徴しているようだ。ニューヨークの同時多発テロ事件を機に、世界史は恐慌と戦争、広がる格差と抵抗の激動をはらんで進んだ。国内では東日本大震災と福島原発事故。さらにコロナ禍が被さってくる。
著者はその日常に流されることを拒み、父母世代の戦争や被爆の記憶に密着しつつ、それらに逆らう潮流を冷徹に見つめている。
〈近い帰国(スコーラダモイ)〉いくたびも聞き日本海
世界中の遺骨にありしきのこ雲
地球忌とならん原発 地震の春
洗われし軍服はみな征きたがる (中略)
猪飼野は風の径なり風の春
「言論の覚悟」かにかく春の陽や
ありがたき花鳥の道や核の塵
炎天に問う歩きてさらに問う
淡き虹のちの時代に架けられる
撮影・中西ひろ美「芽を出して花のひとつに数えらる」↑
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