宮本佳世乃「うぐひすの窓をひらいてキーボード」(「かばん」6月号より)・・
「かばん」6月号・通巻483号(発行人 井辻朱美/編集人 高村七子)、本号の特集は睦月都歌集『Dance with the invisibles』(角川書店)と岡田美幸(屋上エデン)歌集『グロリオサの祈り』 (コールサック社)。それぞれ、読みどころ満載である。各自選歌より二首ずつ挙げておこう。
春の二階ダンスホールに集ひきて風をもてあますレズビアンたち 睦月都
やさしいと言はれて私に優しさはあなたのためにあるのではないのに 〃
手にすればこわれやすくてあいらしいクロワッサンはみかづきの舟 屋上エデン
たい焼きの型にはまった笑顔でも誰かをきっと笑顔にできる 〃
中に、「俳句で返句」というのもあったので、
ひとつでも汚い花火はないかなと見つめていたが不発も綺麗 屋上エデン
[返] 空を弾(はじ)く音を探せば遠花火 久真八志
ともあれ、アトランダムになるが、本誌本号より、以下にいくつかの歌を挙げておきたい。
人からは掴みどころがない人と思われたいから変化している 小鳥遊さえ
待ち合わせなんかしてないこの場所で日没を見る、暗くなるまで 田中真司
コロナ前に女児誕生を祝ったが…遇えば、早くも可愛い4才 久保 明
知り合ひは一人も居らぬ名簿ゆゑ暗号表としても使へる 松澤もる
人類は気づかないこの星がすでに姿を消していること 前田 宏
身も世もなくわらっているのだ桜たち分かち書きするサインコサイン
井辻朱美
春風に桜が散れば浅草の街は祭へ一歩踏み出す 大黒千加
許されずなきものにして蓋をした 応えよと今名前呼ばれる 榎田純子
針を忌み庭の夜薔薇の紅を吸い息さえふかく生に震えて 河野 瑶
2本あるハサミが嫉妬しないよう互い違いに使ってる たけしたまさこ
最愛の娘を喜ばすために林檎売りから林檎を買った 沢 茱萸
桜さくら桜はなびら踊りながらコメントのこしさよならをする ユノこずえ
気づいたらアスファルトからはえていた生まれた場所が死に場所でした
高村七子
失速する弾丸それてゆく軌道どこにも行けないまま終わる今日 山田 航
ひゃくまんかいよんでも九九は八十一あなたはせかいをかえられません
茂原朋子
絵にかいた餅でなくこれは餅にかいた未来みんなでこれから食べる 高柳蕗子
エッシャーの滝の表紙の手帳あり無口な人の文箱の中に 中沢直人
蟻の巣のようなる街に棲んでいてときおり支給されるウエハース 土井礼一郎
缶のままビールひとくち角打ちはこころをまるくするところなの 飯島章友
親指のネイルは残り肝心なことの変化についていけない 百々 橘
だれだって墓のうらには廻るでしょう?トマトつやめく夏はなおさら 佐藤弓生
ロボットのアームがぼくに迫つてもうまくはいかないデブリは無敵 嶋田恵一
ブログタイトルにした句は、「かばんゲストルーム」のもの。
五月来るうたひながら弾みながら 宮本佳世乃
撮影・鈴木純一「やられたら1周回ってやりかえす」↑
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