マブソン青眼「AIに五七三無し清夜」(『縄文大河』)・・


 マブソン青眼句集『縄文大河/Chuma nai』(本阿弥書店)、帯の惹句に、


 アニミズム俳句の三部作完結

 「五七三」のリズムに乗せて/“命の螺旋“を詠う

    石組炉地球ひとつのかたち

 千曲川流域の縄文文化へタイムスリップ


とあり、著者「あとがき/五七三、アニミズムのリズム」には、


 突然「五七三」という韻律に出合ったのは、二〇二三年二月十七日の正午頃である。朝から寒晴れだった。北信濃の千曲川(旧称「ちうま」)と犀川の合流点近く、長野市若穂町の宮崎縄文遺跡の向かい辺り、広く涸れている洲がある。そこのたいらな白石を選んで仰向けになって寝てみた。すると一つしかない白雲(はくうん)より大鷺(だいさぎ)が降りて来た。

  白雲より大鷺降りて無音

“凄まじい歓び“だった。原始の世界へタイムスリップしたかのような、無垢なる宇宙を垣間見たような……。「無垢句」という言葉は自然に口から出た。(中略)

 とくに目に止まったのはなぜか、

  秋風の石が子を産む話し(七五三)という、“難解にして可愛らしい珍句“。(中略)

 放哉の筆によって仏教の格言が「アニミズムの無垢句」に生まれ変わり、同時に五七五の周期的な(輪廻転生の)リズムが五七三の螺旋的な(縄文的な?)時間意識に変わったのではないか。(中略)

 これで、五年にわたる「海のアニマ」(南太平洋の人魚)・「空のアニマ」(ヨーロッパの妖精)・「石のアニマ」(縄文のビーナス)の三部作が完結する。


 とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。


  稲妻に土偶叫ぶか笑むか       青眼(せいがん)

  抜歯され凍月仰ぐ吾(いじん)

   〈揚げ雲雀自由いびついびつ 佐怒賀正美〉

  家の鍵ポケットから落ちヒバリ

  飛ぶ鷹のことば無き詩を仰ぐ

  岩に座し億万の日の余熱

  川波や月型蛇型無形

   「千曲」の語源をアイヌ語族の「Chu’kma」(鮭のいる処)とする説がある。

  鮭ゆるゆる遡上いきなり火焔(ほのお)

  蛇は穴に 文字無き民の平和

  土器に死児(こ)の足形や天高し

  軍用ヘリ千曲川(ちうま)の秋千切る

  河川敷「国有地」とて吹雪く

  火炎土器のなかは冥土の無月

  雪五尺あり火焔あり一村

    「翁曰く」

 「発句は畢竟(ひっきょう)取合物」雷火

  昼寝覚そして仔猫になった

  柿落ちて縄文ひそと消えた

  モンブランの隆起線荒し時雨る


 マブソン青眼(まぶそん・せいがん) 1968年、フランス生まれ。



       撮影・芽夢野うのき「名の知らぬ遠き人類時計草」↑

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