佐藤りえ「真夜中に葡萄を食べる仲となりドミノがひとつ倒れる予感」(『恋の短歌コレクション1000』)・・
日本短歌総研『恋の短歌コレクション1000』(飯塚書店)、「まえがき」には、
ここに、古代から今日までの色々な恋が一斉に光を放っています。メンバー六名が二年にわたってさまざまな知見を撚り合わせた産物です。企画に当たっては、先ず、大きな網を打ちました。古典にはじまる幾多の名著、あまたの青春歌集から昭和万葉集や評伝、加えて本著のための公募作に至るまで、多方面から収集を始めました。また、全ての歌が恋歌であるような歌人の作品からは厳選する一方で、ほとんど恋歌のない歌人の歌集からは希少歌を発掘しました。
とあった。その6名の編者は、梓志乃・石川幸雄・川田茂・水門房子・武田素晴・依田仁美である。ともあれ、ここでは、紹介に限界があるので、現役かつ、愚生の一見の方から、恣意的にをいくつかを紹介しておきたい。
雨上がりをあをいリボンを見かけたらきつとうさぎは耳を押さへる 山崎郁子
ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて 永田 紅
透明の伽藍のごとく楽章がその目に見ゆる青年を恋ふ 水原紫苑
きょう会ったばかりでキスは早くない?/ヤヨイ・トーキョー春花咲きて 林あまり
つけてくる運命の鰐に向きなおれ私を愛しはじめたあなた 高柳蕗子
わが裡のいづこに棲めりかのひとの名は・・・半身にシャワーを浴びて 井辻朱美
足長のものならグラスも馬も好き階段のぼる恋人はなお 松平盟子
春雷よ「自分で脱ぐ」とふりかぶるシャツの内なる腕の十字 穂村 弘
なれの眼に湧きてさざめく感情をしばし見てゐて たがて別れぬ 鎌倉千和
あなた・海・くちづけ・海ね うつくしきことばに逢えり夜の踊り場 永田和宏
たちくらむ春の名残の木下闇かるがるきみの腕にいだかる 沖ななも
潮風に君のひおいがふいに舞う 抱き寄せられて貝殻になる 俵 万智
君といふ魚住まはせていつまでも僕はゆるやかな川でありたい 喜多昭夫
たったひとりの女のためにあかあかと燈しつづけてきたるカンテラ 福島泰樹
にくしみとならぬ愛なし万緑の底しずかなる蟻の隊列 伊藤一彦
一度だけ「好き」と思った一度だけ「死ぬ」と思った 非常階段 東 直子
三つかぞえろ 誰も出来ないくちづけをほろびるまでにしてみせるから 正岡 豊
真昼間をさくらは透きてふかかりききみひめやかに分娩へ閉づ 小池 光
この秋を百の半(なから)にきみありて光(こう)またとなき読点を打つ 今野寿美
妻を看るこの生活をいましばし続けよといふ天意なるべし 桑原正紀
いきなりの別れのあとはどしやぶりになればいいのに、取り残されて 宇田川寛之
この僕を捨てる覚悟でフライドチキンショップの席を立ち上がる君 枡野浩一
ありがとうございました こんなにもあかるるい別れの朝の青空 中山 明
君のこと想いて過ぎし独房のひと日をわれの青春とする 道浦母都子
過ぐる夏われにもありし愛恋のいたみのごとし櫨のもみじは 久々湊盈子
夏の陽に耀(て)りながら降る大粒の驟雨のごとく人を恋いいき 永田 淳
撮影・中西ひろ美「なれそめはこんなところに夏はじめ」↑
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