白戸麻奈「彼岸此岸どちらでも良い日向ぼこ」(『東京(バビロン)の夜空に花火』)・・


 白戸麻奈遺句集『東京(バビロン)の夜空に花火』(破殻出版)、序は山﨑十生、それには、


 「晴天の霹靂」と云う言葉があるが、それ以上に白戸麻奈同人の訃報には驚愕した。句会の最中に妻からのメールが送信されて来た。思いもかけない知らせに動揺しつつ帰宅した。麻奈同人の御母堂である白戸章子様からの報告の内容が詳しくメモに記されていた。第二句集は『少年』というタイトルまで決まっていた。私もあと一年後には原稿が揃うのではないかと期待していただけにショックであった。(中略)

 本集は、第一章を「東京(バビロン)」として、主に俳句雑誌「紫」に発表された作品、FM川口の「俳句らいふ」に寄せられた作品をまとめたものである。第二章は、「少年」の作品に限定したものを季節毎に編集させていただいた。それにしても本句集が遺句集となったのは残念極まりないが、麻奈さんが我我へメッセージを遺してくれたのではなかろうか。また章子様の御息女への愛の結晶となった一書のような気がする。


 とあった。また、御母堂白戸章子の「あとがき」には、


 「今朝、麻奈ちゃんが亡くなりました。」麻奈の夫からの電話です。「ほんと、ほんとに!」私の頭には、昨夜、麻奈と「秋になったら展覧会めぐりをしようね」と話し、「お互いに腰や膝の痛みが軽くなるよう努力しようね」と話していた麻奈の笑顔や声が浮かんでいましいた。(中略)

 麻奈にとって俳句の世界は、大きく深いものだったと思います。この度、刊行いたしました『東京(バビロン)の夜空に花火』を出させていただけたのは、山﨑十生先生の大きなお力を頂けたおかげです。(中略)

 麻奈は「これからは好きな昆虫の俳句を作っていくからね。」と言っていたのに。その作ったであろう虫の俳句に出合えないのが、とても残念です。(中略)

 これからは、私の内にいる麻奈と一緒に残り少ない私の人生を感謝しながら温かく毎日を生きていきたいと思います。

   彼岸此岸どちらでも良い日向ぼこ       麻奈

                      白戸章子(母)


 とあった。愚生は白戸麻奈と一度だけだが、電話でお話したことがある。それは「豈」を購読したいがどうすればよいか、ということであった。その時、どこかで記憶している名前だと思った。「紫」の同人だと言われ思い当たった。山崎十生は「豈」の古くからの同人であり同誌への執筆の機会もいただいていたからだ。その折、若く有望な方だと思ったことを思い出す。ともあれ、ご冥福を祈りつつ、本集より、いくつかの句を挙げておきたい。


  声だしたい悲鳴あげたい猫柳        麻奈

  朧なのか涙なのか震えたる

  止められぬ素敵な予感蛇の衣

  爪たてるこの亀の子が欲しいんだ

  待つものが来ないらしいな鉦叩

  我と鳩白露の中へむかいたる

  門松に死に神一匹つきささる

  冬の暮ピカピカ光る犬の紐  

  少年のあこがれている樫の花

  キャベツから少年の出る夜明けかな

  象に乗る少年の手に色鳥来

  少年を永遠にする秋夕焼

  少年の居られるように山笑う

  少年の名前を奪う雪女

  瞬きの増える少年寒昴

  朝焼に終末時計なっている

  

 白戸麻奈(しらと・まな) 1969年2月27日~2023年7月18日、東京生まれ。



  撮影・芽夢野うのき「はつなつの夕日のうしろで寄る年波」↑

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