鈴木明「たつどしを翔ぶしろがねの雲一騎」(「実の会」第5号より)・・

 

 「実の会」(実の会発行所)、巻頭は山本敦子「妻が選んだ明俳句選」で、辞世の句とでもいうべき未発表句・4句が置かれている。それは、


  水平の蓮左より光右より闇          明

  まぐわいのひととき過ぎて水死する

  われ逝く日黄金アカシヤ全落葉

  俺の死ニ神蟋蟀に騎ってくる


 である。また、山本敦子のエッセイには、


 (前略)

  影のみヒト科の僕を許すか冬日燦

  しぐれて二人月面にいるようじゃないか

  妻の孤独は孤児より孤独師走のバラ

 この三句は私と関連のあるもの。

 一句目は二人が出会って愛し合った頃、道ならぬ恋だったので彼が自分の良心に問い自分を責めた句。二句目は二人の倖せであった頃、とても詩的で好き。三句目は彼が未だ病気になる前、もし自分が死ねば敦子はどうなるのだろうと今の私を予測していたかのような句。余りにもぴったりなので頭から離れません。


 とあった。その他、鈴木明、野の会誌掲載の『自句自解』が二篇、加えて桑田真琴「鈴木明『自句自解』を振り返る」と鈴木明「たつどしを翔ぶしろがねの雲一騎」の句の鑑賞がある。ともあれ、以下には、本誌本号から、いくつかの句を紹介しておこう。


  凩の弔旗を胸の奥に立て            桑田真琴

  虹立ちて隠しきれない少女にもどる       伊澤祝子

  戸籍筆頭者に丸 人参甘く煮る         伊東宏恵

  老後にはまだ老後あり虎落笛          伊東芳子

  凩は哭く徒歩難民の無言            伊東良平

  ぼくの深部に木枯しの部屋夜を余す      内田麻衣子

  雲海に放つ宛先のない手紙           浦田京子

  へのへのの目鼻たしかな捨案山子        近江禮一

  オリオン忌消えなん季語や星光る        鷲ケイジ

  向日葵がみんな向こうを向いちゃった      岡田路光

  頬杖は老いの止り木小鳥来る        おぐちさかん

  好奇心持てば百万力の春            神尾浄水

  あのひとの頭文字(イニシャル)辿る冬螢   菊地伊津子 

  九条葱〆を彩る薄明り             佐藤智子

  次の世はむらさきの糸吐け捨て蚕       島田ミヤ子

  句集より零れし俳句天の川           比嘉樹美

  風力発電止み対岸に溶く秋夕べ        前田未来子

  昭和卓上きゅうり漬には味の素         牧野啓子

  木枯しにみよみよ鳴くよ三毛の仔ら       宮坂 薫

  迎え火を焚く人去りて草の家       やましためぐみ

  「生きたいんだ」ガザの少年叫ぶ冬       山本敦子

  処理水の鋼管太く時雨来る           山家雪雄

  いなびかり嗣治素描の少女の眼         芦川りさ

  結願の読経無量花遍路             有原雅香

  子の浅き寝息とずれて冬の夜          有光裕子  



    撮影・芽夢野うのき「花吹雪あたりに目眩いいと激し」↑

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