小林一茶「目出度(めでた)さもちう位也(くらいなり)おらが春」」(「新・黎明俳壇」第10号より)・・
「新・黎明俳壇」第10号(黎明書房)、特集は「一茶『おらが春』の名句を味わう」。執筆陣は小枝恵美子・横山香代子・山科希・星野早苗・川嶋ぱんだ・赤野四羽・二村典子・かわばたけんぢ・田中信克・山本真也。その田中信克が読む一茶の二句は、「けふも日も棒ふり虫よ翌(あす)も又」「能なしは罪も又なし冬籠(ふゆごもり)」、そして鑑賞文には、
まるで私のために用意されたような二句である。編集部は私の実生活と憤怒とをお見通しなのではないかと恐ろしくなった。還暦過ぎても正規雇用で働き、父母を含む六人家族の家事を一通りこなし、未明から洗濯、掃除、ゴミ出し等に追われ、夜九時頃に帰っては残存家事を片づけつつ、句作や小原稿等に勤しんで深夜就寝。これを繰り返して何になるのか。生活の糧はあれど満足はなく、能もなければ実績もなく、それでいて平穏な生活。この二句を読むと、そんな情けなさでいっぱいになる。(中略)
「痩蛙」や「目出度さも」の句もそうだが、一茶の句には読者の共感をそそる心情と内省的な意志が共存していて、そこが面白い。その意味で、この二句は私の私生活の愚痴を満足させつつ同時に反省を促すのである。誠に一茶は偉大である。
とある。愚生の知る田中信克は、現俳青年部の創設時のメンバーの一人だった彼である。もう30年ほど前のことだ。早くに妻を亡くされたので、男手での子育ても大変だったのかもしれない、とふと思った。その他の記事も多彩で興味深いものばかりだ。ともあれ、本誌本号より、アトランダムになるが、いくつかの句を以下に挙げておこう。
わらわらと這い上がりまた這い上がり 滝澤和枝
だが、と来る人にあげよう温め酒 中原幸子
同期また一人磨り減りビールの泡 鈴木光影
二人して立夏の雨に飛び出すよ 朝倉晴美
押入れの隅に小さな蜃気楼 赤石 忍
初夏のピッチャーの背の反り返る 横山香代子
息白く唄ふガス室までの距離 堀田季何
雪の夜も呼び続けるナースベル 柳富士雄(第42回黎明俳壇特選)
ずっしりと梨だれかと分かつ為田だろう 梨地ことこ( 〃 ユーモア賞)
おはようとただそれだけの白い息 安本武子(第43回黎明俳壇特選)
出世せぬ者ばかりから賀状来る 海神瑠珂( 〃 ユーモア賞)
山茶花の咲くにまかせて町暮れる 武馬久仁裕
撮影・芽夢野うのき「前に出よ土筆たんぽぽ野の風よ」↑
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