瀬戸正洋「反戦歌とは恋歌のこと牡丹の芽」(『似非老人と珈琲』)・・
瀬戸正洋第3句集『似非老人と珈琲』(新潮社 図書編集室)、跋文相当の寄稿は富樫鉄火「平野甲賀さんと瀬戸俳句」、著者「薄志弱行ーあとがきに代えてー」には、
(前略)「薄志弱行」、味わい深いことばだと思う。
山村で暮らしているので車は不可欠である。外出してもアルコールは控えるようになった。
そんな訳で、コーヒー店へ通うことになる。
三百句まとめた。
とあり、寄稿の「平野甲賀さんと瀬戸俳句」には、
(前略)そんな甲賀さんの、装幀家としての最後の作品のひとつが、二〇二〇年九月刊、『亀の失踪 瀬戸正洋句集』(新潮社図書編集室)だった。もちろん、多くの仕事を同時進行で抱えておられたので、どれひとつを「最後の作品」と決めることはむずかしい。しかし、少なくとも『亀の失踪』は、ほぼ「遺作」に近いお仕事のひとつだったようだ。(中略)
できあがったデザインは、有名な〈平野甲賀体〉が躍る、いかにも平野さんらしいものとなった。
今回、『亀の失踪』につづく句集を上梓するにあたり、装幀をどうするか、編集部がふたたび、大森(愚生注:賀津也)さんに相談した。もう平野さんは、この世におられない。しかし大森さんは、「やはり、前著のイメージを踏襲した方がいいから、今回も〈平野甲賀体〉を使わせていただこう」という。そして、幸い、ご遺族から許諾をいただくことができた。かくして天上の平野さんと下界の大森さんの「合作」による、今回の装幀デザインとなった。
こうしてみると、〈平野甲賀体〉と瀬戸俳句は、相性がいいような気がする。
とあった。集名に因む句は、
冬の日の薄志弱行似非老人は躓く 正洋
であろう。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておこう。
遠心分離式脱水機酷暑かな
アルミ缶潰す空に満月海に満月
一方通行を左折しぐれてゐたりけり
夕立やストップウォッチが止まる不思議
ところてんいくら期待しても無駄
三伏や娘と帰る家が異なる
どぶろくや確認できなくても同意
かたまつてゐる落葉かたまつてゐる子供
極月や賛否両論外の論
神の留守泥船も十分に舟である
寄居虫には寄居虫なりの呪縛
「余計なことは言はぬ」は余計蜆汁
さみだるる酔つた勢ひてふ一歩
こんなところに世界遺産や砂糖水
瀬戸正洋(せと・せいよう) 1954年生まれ。
鈴木純一「ムスカリの絨毯で飛ぶ三鬼の忌」↑
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