平岡あみ「土曜日も遊ぶ日曜日も遊ぶおとなは遊ぶと疲れるらしいね」(『蛸足ノート』より)・・


 穂村弘著『蛸足ノート』(中央公論新社)、本著所収のエッセイの初出は、読売新聞(夕刊)2017年4月~2023年9月19日、現在も連載中の「蛸足ノート」をまとめたもの。著者「あとがき」に、


(前略)タイトルは蛸の足のようにあちこちに言葉が伸びてゆきうイメージでした。

 この中で猫が飼いたいという話を何度か書いていて、偶然ですが、初めての仔猫が家に来るところまでが一冊になっています。

 名前は妻が「ひるね」とつけました。

 初めて会った時に昼寝をしていたから、という理由らしいのですが、仔猫はだいたいそいじゃなかなあ。

 「ひるね」が蛸を見る日は来るでしょうか。


 とあった。帯の惹句には「にゅるりと/世界も自分も裏返る//読売新聞人気連載の蛸足的エッセイ」とあり、また、


 「海が似合いませんね」/ええ、まあ、

 と曖昧に微笑みながら、/内心は傷ついている。


とあった。ともあれ、本著中に紹介された短歌をいくつか挙げておきたい。


 年老いて命の濃度薄まったおじさんやたらくしゃみがでかい    園 部淳

 あれをまた作ってくれと言う父の辞書にない文字スイートポテト  姉野もね

 なぜ置かぬ置けば買うのに マヨネーズと辛いなにかを和(あ)えた具のパン 

                                和田浩史

 覚えたてのひらがなで書いた「すきです」のお返しはガンダムの絵でした

                                ほうじ茶

 永遠に忘れてしまう一日にレモン石鹸泡立てている        東 直子

 朝まだき老女の古い携帯に援交いかがのメール来 楽しも   波多野千鶴子

 クリスマスなんて遠いの……スリープレスTシャツで川岸を歩けば 正岡 豊

 ブラックジャックが鉄腕アトムに助けられ火の鳥が飛ぶ 生きててほしい

                                後藤克博

 あたたかい気持ち未来より感じたり今際のわれが過去思ひしか   高山邦男

 おすそ分けの器を返す時マッチ一箱入れてた時代があった     稲熊明美

 穂村弘より年下 枝野幸男立憲民主党代表は           松木 秀

 本をあんなに持っているのにまた本を買うのかとなじられる毎日 古賀たかえ

 こんなところまでついて来てくれてありがとう52階で払う猫の毛 まるやま


 穂村弘(ほむら・ひろし) 1962年、北海道生まれ。



       毎日新聞、3月24日付け・坪内稔典「季語刻々」↑

★閑話休題・・大井恒行「春ノ夜ノ耳ヲタテタル不眠カナ」(毎日新聞3月24日、坪内稔典「季語刻々」より)・・


 毎日新聞・坪内稔典「季語刻々」、愚生とは、半世紀に及ぶ長ーい付き合いだ。いや、むしろ、「過渡の詩」の坪内稔典をどこまでも見届けたいとすら思ってきた。思えば、70年代とは、確かにそういう時代だったかもしれない。坪内(ツボ)サンの句にもある。

   

        三月

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     芽夢野うのき「夢見る月のいも虫月を愛でああ愉快」↑

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