佐怒賀正美「野遊びのいつしか至る一騎打ち」(『黙劇』)・・

 

 佐怒賀正美第8句集『黙劇』(本阿弥書店)、その「あとがき」に、


 本書『黙劇』は私の第八句集になる。『無二』に続く、二〇一八年秋から二〇二三年秋の入口までの約五年間の句から三百二句を選び出した。私の六十二歳から六十七歳までの句である。(中略)

 私の身辺での出来事を述べれば、学生時代からの俳句の恩師・有馬朗人、そして歌人であった義父・橋本喜典の急逝が大きかった。俳句のもう一人の恩師・石原八束は他界して既に四半世紀が経つ。それぞれ真摯に文芸に向き合って生きてこられた姿勢と作品から学んだものは限りなく大きい。(中略)

 本句集では、多岐に亙る俳句の世界になっているかもしれないが、以上のような多様な「いま」を自分なりに表現した結果だと了解していただければ幸いである。想像力を含め、実も虚もすべて自分である。自分なりの世界と文体も追求してきたが、忌憚のないご批評をいただければ幸いである。


 とあった。ともあれ、集中より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておきたい。


  夢継ぎのやうに紅萩こぼれけり       正美

  秋虹やゐさうでゐない人魚の子

  春月や世界で初めて死んだ人

  神倦みて虹の片脚揉みほぐす

  絶滅へ至る個々の死蚯蚓鳴く

  乗るによき父の背いつか天の川

    祝「加里場」四十周年(井上論天主宰)

  加ふるに父君降りこよ秋の賀に

     *父君は俳人・井上土筆(故人)

  雲雀野や次々に立つ赤ん坊

    義父・橋本喜典の遺歌集『聖木立以後』完成

  遺歌集を供へ青紫陽花の窓辺

  をちこちの疫鬼をさとし神の旅

  世の隅の思郷にも似て花八ツ手

    ウクライナを憂ふ

  大蛇穴出て戦車をば巻き燃やせ

  地球いつも戦まじりや夜の虹

  揚雲雀自由がいびついびつ

  いくさ数多さりとて虹も無尽蔵

  パントマイム入道雲の揉み応へ

  pantomaimu niyuudougumono  momigotae

 

     a mime

    he rubs and feels

    a thunderhead

                              (英訳協力:青柳 飛)


 佐怒賀正美(さぬか・まさみ) 1956年、茨城県猿島郡境町生まれ。



       芽夢野うのき「蠟梅やいのちの果てが躍るなり」↑

コメント

このブログの人気の投稿

田中裕明「雪舟は多く残らず秋蛍」(『田中裕明の百句』より)・・

秦夕美「また雪の闇へくり出す言葉かな」(第4次「豈」通巻67号より)・・

山本掌(原著には、堀本吟とある)「右手に虚無左手に傷痕花ミモザ」(『俳句の興趣 写実を超えた世界へ』より)・・