中川純一「ふつきれなあかんねんてと暖かし」(『雪道の交叉』)・・


 中川純一第2句集『雪道の交叉』(朔出版)、帯文は行方克巳、それには、


     小鳥来るその木の幸のあるごとく

  とある一樹を目指して飛んで来る小鳥たち――。まるでその木には彼らだけが知る幸が備わっているかのようである。人生のまことの幸せとは何かを深く考える齢に作者はいまさしかかかっている。しかし、一方では、人類の滅亡の危機を梟に問わなければならぬような時代にも直面しているのだ。俳人として科学者としての作者の今後に注目する所以である。


 とあり、また、著者「あとがき」には、


 本書は『月曜の霜』に続く私の第二句集で、五十歳から七十歳までの句を収めた。(中略)その間、色々な区切りがあった。当初、会社勤めをしていたが、その後東京農業大学のオホーツクキャンパスで微生物学の教員として十一年間を網走で過ごした。海も空も広く、冬のには流氷が遥か沖まで輝く大いなる自然に抱かれた心豊かな日々であった。

  キャンパスが雪に埋まると、講義棟をつなぐ細い雪道が縦と横に掘りこされる。(中略)北国で学生たちと交叉しながら過ごした十一年間は、私にとって特別な意味を持つと考えて、句集名を「雪道の交叉」とした。


 とあった。ともあれ、本集より、愚生好みに偏するが、いくつかの句を挙げておこう。


  昼顔や視線かすかな毒を投げ          純一

  日傘閉ぢたる眼差しを向け来たる

  三月やバスのどこかが塗り替へられ

  叶はざること願ひて星の竹

  流氷や手を振らざりし露西亜船

  黴菌(ばいきん)の黴(ばい)の字の黴(かび)はびこれる

  雪原ただ雪原過去とも来世とも

  雪雫して星置といへる駅

  地震列島原発列島五月富士

  無花果をふぐり掴みに捥ぎにけり

  山眠る見えざる水の奏でゐて

  星がまた飛んで涙の乾きけり

  仰ぎたる我に囀向き直る

  落したる句帳たちまち蟻が検見

  梟に聞く人類の絶滅を

  

 中川純一(なかがわ・じゅんいち) 1952年、東京生まれ。



            鈴木純一「春隣その日の糸はその家に」↑

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