喜多昭夫「牛丼の(並)を待ちをり今しがた天皇制は初期化しました」(『青の本懐』)・・


 喜多昭夫第8句集『青の本懐』(発行者 摂氏華氏)、著者「あとがき」には、


 前集『いとしい一日』(二〇一七年)以降の作品を再構成して一冊にまとめた。私の第八冊目の歌集である。三三五首を収める。(中略)

 二十歳で前衛短歌に出会い、二十六歳の時に第一歌集『青夕焼』(一九八九年)を刊行した。「青」の一字は、春日井建先生の歌集『未青年』にあやかったものだ。このたび還暦を迎えて、「青」は「青」に還るのがふさわしいと思い、『青の本懐』と命名した。


 とあった。 愚生好みに偏するが、集中より、いく首かあげておこう。


 ふところに牽制球の三つあり妻と子どもと上司に投げ込む        昭夫

 背後より潔く死ねといふ声すふりさけ見ればわたつみは闇

 まつしろなただまつしろな雲湧けり靖国、知覧、無言館、夏

 ひさかたの天(あめ)の粉雪(こゆき)をあかあかと頬にうけたる吾妻かなしも

 「モウスコシ命ヲ粗末二シテクダサイ」勝手二口ガ動イテシマフ

 ほほゑみは瀧のごとしも妃殿下に皇位継承順位はつかず

 「永遠に廊下に立つてゐるがいい。戦争よ、あなたは大馬鹿者」母より

 身籠りし腹に手をあて飛ばぬ蛾のごとしと森岡貞香歌ひき

 垂直に筋引きながら降る雨は誰のものでもなき冬の雨

 動かぬ蟻は力たくはへて列に戻りてまた翅はこぶ

 灯台になりたい人は手をあげて私が船の役をするから

 龍英の歌にその名をとどめたるPARCO三基は墓碑とならざり

 

★「つばさ」第20号(つばさ短歌会)、「つばさ」は喜多昭夫主宰の歌誌、創刊号は1993年だから、20年を閲している。「『細く長く』を合言葉に身の丈にあった活動を継続させていきたく思う」(喜多昭夫)とある。良いペースだと思う。ともあれ、以下に一人一首を挙げておきたい。


 父の遺品を整理してなほ捨てられずペンキまみれのニッカボッカよ  喜多昭夫

 少しだけ遅れて咲きし一輪もポタリと落ちて季節が変わる      島田彰子

 囀りがとほのゐてゆくすべては夢でどの図鑑にもみつけられない  杉森多佳子

 こはれるとこはすは違ふことだけど結果は同じもとにもどらない   竹中玲子

 光から生れ光に還るわれらなら虹は誰かが投げるテープか     浜本すみれ

 老犬の背を撫でやれば盲ひたる眼(まなこ)凝らしてもの告げむとす 宮城由利 

 語るあふことなく過ごし一日は儚くもなし猫とわれとに      森尾みづな

 まつ白の胸持つ鳥になつたなら山こえ君の家をさがすよ       山下好美


 喜多昭夫(きた・あきお) 1963年、金沢市生まれ。摂氏華氏の俳号を持つ。



★閑話休題・・狂犬バクシーン・丹野恭司・吉上恭太「カタリ唄の会」(於:下北沢・Tom Boy)・・




 寒晴なれど、午後からは天気下り坂、冬の雷とともに霙になったが、帰宅する頃には回復、星空・・・。狂犬バクシーンこと末森英機は、理由は聞かなかったが、左目に眼帯をしていた。「カタリ 唄の会」で演奏するときは、涙ぐましくも、目薬を差して、眼帯をとって唄っていた。



      撮影・中西ひろ美「一報は悲喜に分かれて雪ふらす」↑

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