橋本直「狼を祀る声なき狼を」(「現代俳句」2024年1月号より)・・


「現代俳句」2024年1月号(現代俳句協会)は、本文活字のポイントを上げて、老生には読み易くなったリニューアール版である(WEB版『現代俳句』も開始)。 巻頭は、理事長・中村和弘「俳諧自由こそ尊し」。論考は、筑紫磐井「現代俳句・季語は生きている」と井口時男「新興俳句逍遥(9)/西東三鬼のイロニーと黒い笑い」。筑紫磐井は、中見出し「一 季題と季語」の中で、


 もともと、自由律俳句・新興俳句以前にあっては季節のことばは不可欠と考えられ、それを季題・季語と呼んでいた。発生的に言えば、「季題」は明治三十六年六月のい秋声会機関誌「卯杖」で森無黄が題詠研究の過程で提案したものであり、「季語」は明治三十六年六月に短歌雑誌「アカネ」誌上で荻原井泉水・大須賀乙字によりドイツ言語論を参考に提案されたものであった。(中略)

 「季題派」はホトトギス・虚子であり、題詠を主とする詠み方、「季感季語派」とは馬酔木・新興俳句(有季新興俳句)の作家であり嘱目・自由な想像による詠み方をする俳人であった。

 実は虚子の俳句は九九%題詠句会による詠み方であった。虚子の代表句集『五百句』『五百五十句』等をみてもそこに記載されている出典の殆どが題詠句会である。(中略)

 ホトトギスから独立した馬酔木も、その後の新興俳句も、花鳥諷詠の題詠という詠み方を軽蔑していた。あるがままの自然や現実から隔離された観念だからだ。


 そして「二 季感季語と無季」では、


 (前略)しかし特に顕著なのは、季節感を優先するため、季語は季節感に対し補助的な扱いになることである。そのため季重なりが顕著にみられるようになった。(中略)

   白樺に照りつつも馬柵の     秋櫻子

   葭切のをちの鋭声や朝ぐもり

   鳴けり湧くより静かにて   

 特に季感季語派の季重なりは当季ばかりではない点に特徴がある。と言うより季感季語派は春夏秋冬という単純で規範的な季節感(四季)ではなく、人間が肌身で感じる自然な季節感(微妙に異なる多数の季節)を尊ぶから、季ずれが生じるのである。その意味では、季感季語派によって初めてありのままの季節が発見されるようになったと言える。(中略)

   頭の中で白い夏野となつてゐる    高屋窓秋

   我が思ふ白い青空と落葉降る

 新興俳句の金字塔とされ、新興俳句の最初期に作品とされる窓秋の掲出句は、秋櫻子のホトトギス離脱宣言「『自然の真』と『文芸上の真』」の発表(昭和六年十月)後の僅か三か月後に発表(七年一月)されており、馬酔木俳句の進むべき道として秋櫻子にも馬酔木同人たちからも激賞されていたのである。この時点で馬酔木俳句は新興俳句そのものであった。(中略)むしろ注意したいのは、窓秋の句は当季でありながら夏と冬の句を平気で発表し、選者も選んでいることであろう。この時点で馬酔木はやはり最先端であったのである。


 とあった。ともあれ、以下には、本誌本号よりいくつかの句を挙げておこう。


  狂うなら夏金星のごと発光し       岸本マチ子

  ひよいと来て犬の遠目や雪の原      宇多喜代子

  天心へしだいに青し冬の月         江中真弓

  満ち足りし水の五体よ初日の出      恩田侑布子

  薄明の意識の岸辺蛇は着く         石川夏山

  うつくしく裸は土に残らない        赤野四羽

  ストーブの音や工場うす暗く        武 元気

  生きてゐれば逢ふつもりだと返り花    越智ゆみ子

  ターレーのするりと回る寒さかな      村木朱夏

  勤勉家器用愛国冬霞           富士真すみ


 

★閑話休題・・「第一回自由律俳句大賞 投句募集」(主催 自由律俳句協会)・・


 ・応募方法 2句1組 氏名(フリガナ)・投句料 1000円(投句制限なし)。

 ・俳号(フリガナ、ある方のみ) 所属結社(ある方のみ) 年齢。

 ・未発表句限定

 ・応募先 メール宛先アリ(別途)

 ・投句用紙郵送先 242-0002

          神奈川県大和市つきみ野1-6-8-105 篠原紀子宛

 ・振込先 郵便振替口座 00180-9-417884 自由律俳句協会

      ゆうちょ銀行 記号10050 番号03963121 自由律俳句協会

      ・郵便為替 可(現金書留は不可)

 ・応募締切 2024年5月31日(金)必着

 ・選者 石川聡・岡田幸生・黒瀬文子・富永鳩山・中村加津彦・堀田季何


 ・自由律俳句大賞 1名 賞状と賞金5万円

    準大賞   1名 賞状と賞金2万円

    佳作   若干名 賞状と賞金5千円

・結果発表 2024年9月下旬 WEBサイト X 、自由律俳句協会ニュースレター

・表彰式 2024年11月下旬(自由律俳句協会総会にて)会場未定(東京都内)

・問い合わせ先 jiyuritsu.taisho@gmail.com



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