本井英「濁酒蒲柳(ホリュウ)の身たあ笑はせる」(『守る』)・・


 本井英第6句集『守る』(ふらんす堂)、著者「あとがき」には、


(前略)句集名「守(も)る」は、高濱虚子の昭和十四年の作「租を守り俳諧を守り守武忌」の句に由来する。(中略)

 ところでこの句集に収められている八年間は、私にとっては試練の時期でもあった。平成二十九年晩秋、大分進行した「咽頭癌」が発覚。その治療のため、約四ヶ月間の入院治療を余儀なくされた。さらに翌年には、その晩期合併症に苦しんだ。時を置かず「前立腺癌」を発症。今年令和五年には新たに「喉頭癌」が見つかり、結局「咽頭」の全摘手術のために、「声」を失った。今後、俳人としてどのように働くことが出来るのか。現在模索中である。


 とあった。ご自愛を祈念するのみ・・・。また、どこかでお会いしましょう。 ともあれ、愚生好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


  とめどなき湯玉めでたし福沸          英

  鶯の遠きはお侠(キャン)近きは艶(エン)

  薔薇の名となりてより幸薄かりき

  合歓の実は風にぺらぺらぺらぺらす

  双六の折れ目に駒のころげけり

  春蟬の空蟬といふ小さかりき

  ぷつつりと胴を断たれて蛇にほふ

  初心者は初心者むきの波に乗り

  吻(フン)の黄の美しきほど佳き秋刀魚

  星くばるまで秋晴でありにけり

  男は死に女は生きて虎が雨

  鴨の足へなりへなりと掻く見ゆる

  雪といふ名の淋しさや一茶の忌 

  不機嫌が許されし世や漱石忌

  蜷が身をゆするたび砂ながれけり

  黒蝶の黒、瑠璃蝶の影の黒

  清(キヨ)さんが好きであつたと獺祭忌

  源流とて落葉だまりに水の音


 本井英(もとい・えい) 昭和20年、埼玉県草加生まれ。



           芽夢野うのき「一生をついに強風椿の実」↑

コメント

このブログの人気の投稿

救仁郷由美子「遠逝を生きて今此処大花野」(「豈」66号より)・・

小川双々子「風や えりえり らま さばくたに 菫」(『小川双々子100句』より)・・

福田淑子「本当はみんな戦(いくさ)が好きだから握り締めてる平和の二文字」(『パルティータの宙(そら)』)・・