原満三寿「わらいながら戦争がくる鵙びより」(『俳鴉』)・・

 

 原満三寿第10句集『俳鴉(はいがらす)』(深夜叢書社)、その帯と背には、


   髪に梅さしてキュンです俳鴉

 「俳鴉」という著者ならではの造語を基調に、俳諧の可能性を探り、遊んだ第十句集。

 /俳諧の新たな地平へ


 とあり、著者「あとがき」には、


 齋藤愼爾さんが三月に他界されました。二月に、第二十三回現代俳句大賞の受賞が決まったばかりでした。(中略)

 齋藤さんの骨揚げのとき、齋藤さんの精神は死んじゃいないんだ、と思いました。ですから、サヨナラは言いませんでした…‥‥。噫。(中略)

 奇天烈な句も頻出しますが、すべて八十二歳の蹌踉めき、酔狂とお笑い下さい。

 句集の構成について述べますと、各章のはじめと最終章のおわりに主題の俳鴉に句群を間歇的に配置してみました。(中略)

 一茶は文政五年の「文政句帖」に、アイヌの和人化政策として、幕府が蝦夷地に蝦夷三官寺を建立した報に接し、

  御仏やエゾガ嶋へも御誕生

などと詠んで言祝いだのですが、その後、アイヌへの和人の収奪の情報に接すると、いってん深い怒りとアイヌへの同情を示します。

  銭金を知らぬ島さへ秋の暮    「文政句帖」文政五年四月

  江戸風を吹かせて行くや蝦夷が島

  来て見ればこちが鬼也蝦夷が島

  商人やうそうつしに蝦夷が島

 これらの句によって、一茶の視野が全国的な政治風土まで及んで、まさに社会性俳句の嚆矢となっていることに驚かされます。


 とあった。ともあれ、本集よりいくつかの句を挙げておきたい。


  俳鴉 花も嵐も鷲づかみ          満三寿

  涸れ川を渡るに全身じゃぶじゃぶす

  驟雨きて疑心暗鬼も駆けだしぬ

  猫かえる痴情のもつれは嘘多し

  はなれ雲 一茶はアイヌに心寄せ

       *「あとがき」参照

  砂時計ふりむくたびに誰か堕つ

  俳鴉 月夜の侘び寝も芸の内

  夕焼けてシャボン玉も帰ろかな

  核の家 やってしまったメルトダウン

  他界人と二人羽織や盆おどり

  むかご飯なつかし老(お)ーいあっちいけ

  俳鴉 ドレに〈いらへぬ〉大鴉

    *ギュスタ―ヴ・ドレ/エドガー・ポオ

  古池やとびこむ〈もののあわれ〉かな

  虹の根に捨てられ傾ぐ乳母車

  漢らの万世一系や亜阿相界(ああそうかい*)

   *サボテンの生態に似た植物、龍胆寺雄の命名

  俳鴉 謝寅の霙にじっと耐え

   *謝寅は蕪村の画名


 原満三寿(はら・まさじ) 1940年、北海道夕張生まれ。



        芽夢野うのき「この実なんの実迂闊にも聞きし」↑

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