羽田野令「太虚へと沈める蛇結茨かな」(「鏡」第47号)・・


 「鏡」第47号(鏡発行所)、羽田野令エッセイ「蛇結茨」の部分に、


  最近植物園によく行っている。京都府植物園には、山野に自生する植物を植えて自然に近い山を再現しようとしている生態園というところがある。(中略)そして、その花の元を辿っていくと太い棘を無数に生やした恐ろしい蔓がある。蔓といっても木刀くらいの太さで一見木の枝のようなのであるが、それが蛇結茨だった。

 蛇結茨という言葉を知ったのは安井浩司の句でだった。最初その語を見た時は、なんか造語のような気がしていた。「茨」という植物を表す言葉がついているが、おどろおどろしい「蛇結」と連なっていることで実在するもののようには思えなかったのだと思う。

 長く雑誌に句を発表していなかった安井浩司の「蛇結茨抄」五十句が掲載されたのは、二〇〇八年『豈』四十七号であった。もう随分昔のことになってしまったが、大阪で「蛇結茨抄」を読む小さな会が開かれた。堀本吟氏の呼びかけで十人ぐらいが集まっただろいうか。蛇結茨の句はごく少なかったが、蛇結茨という植物に焦点は当たらなかった様に思う。他の人も実在すると思っていなかったかもしれない。


 とあった。ともあれ、本誌より、一人一句を挙げておきたい。


  雛の客とはたましひを身のそとに      岡田一実

  人形のなかも肌色夏の雨         三島ゆかり

  棕櫚の花の一木高き車寄せ         森宮保子

  サングラス越しに三角形の空        村井康司

  窓いつぱい滴つてをり東山         大上朝美

  また同じ辻に出にけり蝶の昼        小田淳子

  駅員のゐる祭の日無人駅          倉田有希

  それぞれの体感温度春ショール       井松悦子

  始まりも終わりも不意に雪合戦       佐川盟子 

  摩天樓の一室に置く螢籠         笹木くろえ

  紫陽花や背伸びをすれば背の高さ      佐藤文香

  巻きついて蛇結茨の黄色(きい)の天    羽田野令

  口よりも目が嘘をつく花曇         八田夕刈

  ぶらんこのまだ揺れてゐる芝居かな     東 直子

  おーいおーい春の川からあの世から     手嶋崖元

  黄砂降る書けなくなりしボールペン     寺澤一雄



★閑話休題・・《哲学者の薔薇園》企画展「高き塔より響く歌」(於:銀座中央ギャラリー)・・



 2023.7.31mon~8.6,sun 12:00 ~20:00 (最終日17;00まで)《哲学者の薔薇園》企画展「高き塔より響く歌」、於:銀座中央ギャラリー。

有賀眞澄・安蘭・石井ルイ・Emily Melonpas Opheliac・川井眞理子・工藤美術・古賀郁・小林義和・櫻井美月祈・しゅたいなー・タカダヨウ・野網克美・ポラン(柏木志津子)・松尾友雪・由良瓏砂

会期中のイベント

8月5日(土)19時、20時、21時

出演・紅月鴉海(舞踏)/由良瓏砂(朗読)

料金・1500円&投げ銭



       芽夢野うのき「瑠璃まつりるり色にしてすべて完」↑

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